花・植物のお話 (第19回)  縁起の良い名前「キチジョウソウ(吉祥草)」

キチジョウソウは関東から西の湿った林内に生えるキジカクシ科の常緑多年草です。地下茎が長く伸びて広がり、所々で細長く平べったい葉を輪状に出します。

小笠山では晩秋、葉の間から花茎を伸ばし、その先に何個かの花を穂のように付けます。花は根元に筒状にくっついていて濃いピンク色で先は6弁に分かれ反り返り白っぽく見えます。その対比がかわいらしい花です。実は紫がかった赤色です。株数の割りには花をつけた株は少なく、花が咲くと良いことが起こる、吉事があるといわれ、「吉祥草」と呼ばれるそうです。吉祥(きちじょう)とはめでたいしるしという意味で、私は山を歩いていて花の咲いたキチジョウソウを見つけると「どんな良いことが起きるのか待ち遠しい」とワクワクします。 (会員: 広谷和子)

株元に咲く花

      球形の実



花・植物のお話 (第18回)  名前の由来が素敵な「アケボノソウ(曙草)」

アケボノソウはセンブリの仲間で、山の谷間などの湿り気の多い場所に生える2年草てす。葉の付け根から出る枝に白い花を数個付けます。花の元はくっついていて先は4~5裂し直径は2センチ位。花弁には、真ん中くらいに1.5ミリ位の蜜線溝と呼ばれる黄緑色の点が2個並び、それより先は濃緑色の斑点がたくさん付いています。蜜線溝には蜜がたっぷり用意され、その蜜を求めアリがよくいます。

名の由来は、白地に渋い模様の花びらの様子を、夜が明け始める頃(曙)の空になぞらえ、花びらの斑点を空に残る星を連想して名前が付けられたと言われています。

今まで知っている生育場所は数年すると無くなることが多かったです。その場所にあきてしまったのでしょうか。ほかの植物に負けてしまったのでしょうか。

11月にはどんな花との出会いがあるか楽しみです。  (会員: 広谷和子)



花・植物のお話 第17回 花は甘い香りの「クズ(葛)」

今時分、開けた林道を歩くと、紫の花びらが落ちていたり、甘い香りが漂っていたりして山裾に花が咲いていることに気付きます。

この花は秋の七草のクズで、アジア原産のまめ科の大きなツル植物です。クズは丸みを帯びたひし形の小葉3枚からなる大きな葉で盛んに光合成を行います。花は葉腋から立ち上がった花茎に蝶形花を下から順に咲かせます。 花後、黄褐色の黄色の硬い毛で覆われた平たい豆状の実ができます。実からでも、葉腋の節からでも根が出て繁殖できます。その上、根に根粒菌を共生させているので荒れ地でも生育でき、一旦根付くとあっという間に辺りを覆い尽くします。かつては、蔓は縛る材料や葛布の繊維に、根はくず粉や漢方薬になる有用な植物でした。しかし現在ではあまり利用されなくなり、あちらこちらで大繁殖して嫌われものになっています。アメリカでは1800年代終わり頃から飼料や緑化、土壌流出防止などのため日本から移入し重宝された時期もありましたが、今では侵略的外来種に指定されているそうです。

毎年、甘い香りを嗅ぐと秋を感じホットするのですが、悪い評判を聞くと残念な気持ちになります。 (会員: 広谷和子)

クズの花

 

クズの群落

クズの実



昆虫のお話 第6回 「リスアカネ」の連結飛行と打空産卵を撮影

小笠山にある池に行くと雄と雌が繋がり空中で産卵をしている赤トンボの仲間のリスアカネがいた。リスアカネはで国内では北海道から九州に分布、和名のリスは、スイスのトンボ学者Risの名前に由来する。

リスアカネは翅の先端に黒褐色の部分があり、雄は腹部が赤く、雌は赤くならないで淡褐色。交尾が終わると連結状態のまま飛行、池の岸などの植物が繁茂する上の方で雌雄が飛びながら空中で卵を振り落とし産卵(打空産卵)する。秋に産み落とされた卵はそのまま越冬し、翌春産卵場所が増水して水没する環境で羽化し成虫になると言う。

この特徴ある連結飛行と打空産卵を私は2022年8月23日撮影することが出来た。(会員: 松嶋直紀)

 連結飛行し空中で産卵するリスアカネ (2022.8.23  松嶋直紀 撮影)


動物のお話 第1回 姿を見せた「ニホンノウサギ」

6月20日、林道を歩いていると前方にニホンノウサギが姿を見せた。警戒心の強い動物だが、この日はどういうわけか寛いだポ-ズを見せ撮影に協力してくれた。こんな出合いがあるから小笠山は楽しい。

ニホンノウサギは本州から九州の山野に生息するウサギ科の日本固有種。体長は50㎝前後、細長い耳は7㎝前後も動かすことができる。全身茶褐色の毛で覆われ、体重は2.5㎏位。後ろ足は前の足より長く、脱兎のごとく逃げるのに適し、時速50㎞位のスピ-ドを出すことができる。キツネなどの外敵を察知すると甲高い鳴き声を上げて仲間に知らせると言う。動きは素早く、耳を倒してそれこそ脱兎のごとく走る。このニホンノウサギは、夜行性で昼は草むらに潜んでいて朝や夕方になると活発に活動するようになる。草食性で草などを食べ、冬は樹皮や小枝なども食べる。 (会員: 松嶋直紀)

 

ニホンノウサギ

 2022.6.20  小笠山の林道で撮影



鳥のお話 第4回 姿を見せた「コジュケイ」

山の方から「チョットコイ、チョットコイ」と大きい声で激しく鳴く声を聞いたことがあると思います。コジュケイです。1900年代中国から持ち込まれ、その後放鳥され、野山で野生化したキジ目キジ科の外来鳥です。

この鳥は臆病なためかなかなか姿を見せません。また姿を見せても藪の中にすぐ入ってしまいます。このため撮影は意外に難しいのですが、6月9日、小笠山の林道で撮影することが出来ました。全長は約27㎝、ニワトリのような体型で太くてしっかりした足を持っ鳥。頭は灰色、背にかけては暗褐色で背中には黒褐色の斑紋があります。目の下から喉にかけて明るいオレンジ色、尾は赤っぽい茶色です。雌雄が同色で、雄と雌の区別は蹴爪があるのが雄です。 (会員: 松嶋直紀)

 

写真:林道に姿を見せたたコジュケイ


花・植物のお話 第16回 美しい花、仙人の髭のような実の「センニンソウ」

 残暑の頃、開けた道沿いのあちらこちらで白い花が咲いています。一 面に咲く姿は見事です。 これは園芸植物のクレマチスの仲間でキンポウゲ科センニンソウ属の 常緑つる性のセンニンソウです。草のようですが茎の基部が木質化する 半低木植物です。 葉は長い柄があって3~7枚の小さな葉の集まり、奇数羽状複葉とい う形態をしています。小さな葉の柄が木や草など他のものに巻き付いて 光を求めて上へ外へ伸びます。 葉の付け根(葉腋)から花茎を伸ばし多数花を咲かせます。花は白い花 弁の様な萼片と多数の雄しべと雌しべからできています。 果実は扁平な卵形で長い花柱を付けています。やがて秋が深くなると 花柱が羽毛のようになります。この羽毛のようものは白い長い毛があり、 これを仙人の髭(顔)に見立てたのが名前の由来と言われています。 センニンソウは全草が有毒で、牛や馬は食べず、別名ウマクワズとも 言います。葉や茎の汁で皮膚がかぶれることがあるそうですからご用心 ください。(会員: 広谷和子) センニンソウの花 センニンソウの果実

センニンソウの花

センニンソウの果実



昆虫のお話 第5回 南方系「ハネビロトンボ」を発見

2022年8月4日、小笠山の池に見たことのない変わったトンボがいるのを中山代表と私が見つけて撮影。後翅の基部に褐色の模様がありました。調べるとトンボ科、ハネビロ属のハネビロトンボだった。

このトンボの分布は四国・九州より南西、沖縄、八重山諸島、台湾、中国、東南アジア。生息環境は平地丘陵地の池沼・ダムとのこと。本来南方にいるトンボがなぜ小笠山にいたのか不思議に思いますが、このトンボは移動性が強く、北海道や本州各地で飛来記録があります。2020年10月18日の中日新聞に「トンボの楽園として知られ、70種のトンボが見つかっている磐田市の桶ケ谷沼で、71種目として南方に生息するハネビロトンボが確認された」とありました。近年、地球温暖化の影響で、南方系の昆虫が北進する例が見られます。今回、小笠山で発見したハネビロトンボもその例かもしれません。これまでとのところ雌は小笠山では確認出来ていません。 (会員: 松嶋直紀)

池の枯れ枝にとまるハネビロトンボの雄 (2022.8.4 松嶋直紀撮影)

 


鳥のお話 第3回  「サンショウクイ(山椒食)」飛来

 

 小笠山で7月19日、サンショウクイを撮影しました。スズメ目サンショウクイ科のこの鳥は、全長20㎝、雄は頭部から背の体上面は黒っぽい灰色で色が濃い。体下面は白色です。絶滅危惧1B類(近い将来絶滅の危険性が高い)に指定されている貴重な鳥です。

本州から九州南西諸島に夏鳥として渡来する。主にフライングキャッチで昆虫類を補食する。ピ-リ-リ、ピ-リ-リと鳴きながら飛行します。林の梢の高いところを飛びます。亜種リュウキュウサンショウクイも私は小国神社で撮影したことがあります。 (会員: 松嶋直紀)

写真:飛来したサンショウクイ


植物・花のお話 第15回  蜂や蝶のレストラン「ヤブガラシ」

今回は小笠山にも多いヤブカラシを紹介します。

ヤブカラシはブドウ科ヤブガラシ属の多年草です。葉には対生する巻きひげがあり、ほかの植物に絡みついて蔓を伸ばし繁茂。他の植物を枯らすほどの勢いで成長することが名前の由来です。また、覆われた木や垣根が貧相になることからビンボウカズラとも呼ばれます。

葉は5枚の小葉が集まり鳥の足のようなかたちの葉(鳥足状複葉)になっています。

花は5ミリくらいの小さな花が集まって大きな花のように見えます。このような花の付き方を集散花序と言いますが、良く見るとひとつの花は、薄緑色の4枚の花びらと4本の雄しべ、1本の雌しべからなり、直径は5ミリぐらいです。オレンジ色で目立っているのは花盤と呼ばれ、ここにたっぷり蜜を溜めています。この蜜に蜂や蝶がたくさん集まってきます。やっかいな雑草ですが、虫たちにとっては大人気のレストランです。

なお花びらと雄しべは短時間で散って花盤は薄いピンク色に変わります。ブドウの仲間ですが、残念なことに実はほとんどできません。

(会員 広谷和子)

 



昆虫のお話 第4回 静岡県の固有種 カケガワオサムシ

和名に掛川の名の付くカケガワオサムシが小笠山にいました。この昆虫

はミカワオサムシの亜種で天竜川以東、大井川の間の山地などに生息、大

河川による分断で進化し、カケガワオサムシと呼ばれます。静岡県の固有

種です。

成虫は長くて平たい体をもちます。大部分は夜行性でほかの昆虫を捕ま

えて食べます。地表の石や朽ち木や落ち葉の下にすみます。オサムシの多

くは後ろ羽、後翅(こうし)が退化していて飛ぶことが出来ません。地面を

活発に動き回り、ミミズ、カタツムリ、ほかの昆虫を捕らえて食べています。長い距離を移動することが出来ないためマイマイカブリと同じように地域によって体色などが異なる種類も多く見られます。(会員 松嶋直紀)

 

林道に現れたカケガワオサムシ(2022.5.8撮影)

 


植物・花のお話 第14回  帰化植物のワルナスビ(悪茄子)

先日(6月18日)行われた小笠山の自然観察会で国有林手前の道端にナスビに似た花を付けた50㎝位の草が群生していました。

白い花弁に黄色の雄しべが目立つ清楚な花ですが、近づいて見ると茎、葉、花柄が鋭い棘に覆われていました。「近寄ると突き刺しますヨ!」といった雰囲気でした。参加者の皆さんから「ナスの花にそっくり」とか「ジャガイモの花みたい」との声が上がりました。

この植物は北アメリカ原産の帰化植物、ナス科の多年草ワルナスビです。「悪さをするナス」から名前が付けられたとか。昭和の初めに関東南部で見つかり、その後暖かい地方に広がりました。種でも増えますが根を伸ばして広がる性質があり、細い根からも発芽します。一旦広がると手に負えない草として農家から嫌われています。

植物学者でこの植物の名付け親の牧野富太郎博士も著書で「始末の悪い草、何にも利用のない害草に悪るナスビとは打ってつけた佳名(かめい)であると思っている」と書いています。全草に毒がある上に棘があるので動物は食べません。小さなミニトマトのような実にも毒が有りますので食べないように注意しましょう。豊かな自然が残る小笠山でこれがはびこりすぎないように私は願っています。 (会員: 広谷和子)

 


植物・花のお話 第13回  甘い蜜が一杯、スイカズラの花 金銀花と変化する花色も魅力

 スイカズラの名は、蜜が吸えるつる植物「吸い葛」から由来すると言われています。半常緑のつる性低木で、小笠山でも明るい林縁や道端で他の植物に細い蔓を絡ませているのをよく見かけます。

今頃の葉は柔らかく、裏面は短い毛で覆われています。5月から8月頃、葉の付け根に薄ピンク色の筒状の蕾が二つずつ付きます。筒の中から雄しべ5本、雌しべ1本が出て、花弁は上に4枚と下に1枚に開きます。花は咲いてすぐは白色ですが、時間が経つと黄色くなります。そこから「金銀花」と言われています。

秋になると葉は分厚く、少し縁が丸く裏側に巻いたようになります。一部の葉は冬も残るのでその様子から「忍冬(にんどう)」とも呼ばれます。実は初め緑色ですが、冬には紫がかったきれいな黒色になります。花に出会ったたら、そっと蔓から外して吸ってみたらいかがでしょうか。

スイカズラの花

スイカズラの実



植物・花のお話 第12回  葉の形が二通りあるシダ「シシガシラ」

 シシガシラは山道で良く見かけるシダです。ふさふさした獅子のたてがみのようなきれいなシダです。シダは花が咲かないで胞子で増えるのを皆さん良くご存じでしょう。このシダは光合成をする葉(栄養葉)と胞子を付ける葉(胞子葉)の二つの葉があり形が異なります。栄養葉は地面に張り付くように放射状に広がってできるだけたくさん光を受け取ります。一方、胞子葉は胞子をできるだけたくさん遠くに飛ばすために葉を細くして上に伸びます。

先日、小笠山を歩くとシシガシラの古い栄養葉は地面に広がり、新しい栄養葉と胞子葉を伸ばしていました。丁度、木漏れ日が当たり葉が瑞々しく輝いていました。これから黄緑の栄養葉は濃い緑に、赤っぽい胞子葉は緑色になっていき、それぞれの役割を分担します。このシダは、常緑性なので栄養葉が一年中見られます。是非ご覧ください。 (広谷和子)

シシガシラの広がる栄養葉と上に伸びる胞子葉

 

赤っぽい若い胞子葉



植物・花のお話 第11回  小笠山に群生する身近なシダ「ウラジロ」

 ウラジロは名前のように葉の裏が白い常緑のシダです。正月飾りに使われるのでなじみの深い植物でご存じの方も多いと思います。小笠山ではあちらこちらで大きな群落が斜面を覆っています。

3月の終わり頃、毛で覆われたゼンマイ状の①のような芽を出します。4月初め頃に②のような早緑色の二つの芽に分かれます。そしてゴ-ルデンウィ-ク頃には③のように葉の形が分かるようになります。この若い葉はそのあと大きく分厚くなり、小笠山を愛する会のホ-ムベ-ジの写真のような見事なたくましい姿になります。中軸(軸足部分)とその先に付く羽片(2枚の葉)が1年分の成長分です。次の年には羽片の付け根から再び①のような芽を出し、②から③へと成長を繰り返します。一年で中軸と羽片が一段できます。林道沿いなどでは道に覆いかぶさってくると刈られたり折られたりするので大方2~3段です。ちなみに私が見た中で一番大きかったのは沢の中の滅多に人の通らないところにありました。そのウラジロは、下の方は枯れていましたが6段あって7年目の芽を出していました。中軸は硬くて丈夫なのでかつて箸としても利用されていたと聞きました。小笠山を歩いたらシダ植物「ウラジロ」を観察してみてください。

(広谷和子)

ウラジロの芽①

ウラジロの成長②

ウラジロの成長③



植物・花のお話 第10回  春の暖かさ感じる「ホトケノザの花」

気の早いのは正月前に咲くこともあるシソ科の2年草です。根元から茎をたくさん伸ばして2枚向かいあわせの葉を段々につけます。下の葉には柄がありますが、上の方は柄がなく茎を抱くようにつきます。その付け根に蕾を多数つけます。花は萼から1センチくらい伸びた筒の先に唇のような形の赤紫の花弁をつけます上唇は細長い杓子を伏せたような形で背中に毛が生えています。下唇は二つに分かれ濃い赤紫の斑点があり、蜜を吸いに来るハチの台座で目印でもあります。蕾は全部が花を開くのではなく、蕾のまま種を結ぶ閉鎖花も混ざっているようです。茶畑の隅や道端で群生しいるのを見ると春の暖かさを実感します。名前は上部の葉が横から見ると仏像の下の蓮台にそっくりなのでつけられたとか。また、葉のつく様子から別名サンガイグサ(三階草)とも呼ばれます。なお、春の七草の「ホトケノザ」は別の植物でキク科の「オニタビラコ」です。(広谷和子)

 

ホトケノザの花

ホトケノザ群生



植物・花のお話 第9回  縁起物の「ヤブコウジ」

お正月の寄せ植えでおなじみのヤブコウジ。冬でもつややかな緑の葉と赤い実が目を引き、それらが落ちずに残ることから縁起物とされ、マンリョウやセンリョウに対して「十両」と言われます。茎が地面を這って広がるので小笠山でも群生していることがあります。葉は茎の先に放射状に付き、葉の付け根に白い花を下向きに付けます。花は1センチくらいて可愛い花です。

秋の終わりごろに7~8㎜くらいのサクランボを小さくしたような実ができます。野山に彩りが乏しくなる10月の終わりから春先頃まで見られ、出会うとうれしくなる植物のひとつです。 (会員:広谷和子)

 

ヤブコウジ群生

ヤブコウジの実

ヤブコウジの花



植物・花のお話 第8回  祭り神輿大集合! ゲンノショウコ(ミコシグサ)

12月初めに小笠山のふもとで種を飛ばしたばかりのゲンノショウコに出会いました。北海道から九州の草地に膝より低い高さに群がって生えるフウロソウ科の多年草です。葉は手のひらのように3~5裂に深く切れ込んでいます。花は白から赤紫の5枚の花弁で出来ています。関西では赤紫のものもありましたが、遠州では白しか見たことがありません。同じ科で高山植物のハクサンフウロにそっくりです。花の後、雌しべが2センチくらいの筒状の実になります。実は熟すと外側が五つに分かれ、放射状にはじけて種を飛ばします。残った皮の先がくるくると丸まって御神輿の屋根のように、萼は台輪のように見えます。その姿からミコシグサ(神輿草)の名もあります。

江戸時代から下痢止めの薬として煎じて飲まれてきました。すぐに効き目が表れるので「現之証拠(ゲンノショウコ)」と言われるようになったそうです。 (会員 広谷和子)

 

ゲンノショウコ咲く


若い実

種を飛ばし御神輿のような形



植物・花のお話 第7回  「晩秋の日向で出会うヤクシソウ」

冬の気配を感じるころ、ヤクシソウが小笠山周辺の日当たりのよい林道などで黄色い小さな花をたくさん付けています。漢字で薬師草と書きます。語源は薬師如来の光背に似るという説、かって薬草として使われていたという説がありますが、不明説もあり正確なことは分かっていません。ヤクシソウはキク科でタンポポに近い2年草です。1年目は種から発芽し葉を広げて体に養分を蓄えます。2年目は9月から11月に花を咲かせ、種を飛ばし枯れます。2年目の茎につく葉は、付け根の両方が張り出すように伸びて茎を囲む割合大きな葉を広げます。茎の先や葉の付け根の部分から花柄を伸ばし、数輪の小花が集まり一つの花のように見える頭花を付けます。その頭花には花びらが舌のような形をした舌状花が集まり、キク科特有の花の形をしています。舌状花はそれぞれが雄しべ、雌しべを持ち、果実を結びます。実が熟すと頭花は綿毛が伸びて小さな飾り玉のようなポンポンの形になります。そして風が来ると種を飛ばして役目を終えす。 (会員:広谷和子)



植物・花のお話 第6回  つる性の強靱な植物「カナムグラ」

カナムグラは日本中の道端や荒れ地に生えるつる性の一年草です。茎や葉柄には硬い下向きの棘があり、ほかの草や木にからみつきます。雌雄異株の植物で、雄株は20センチ余りの円錐状の花序に淡緑色の花をまばらに付けます。雌株は苞に包まれた花を重ねた短い穂を花柄の先に下向きに付けます。先日の観察会では道路脇の法面を多数のつるがよじ登って一面の壁のようになっていました。その生命力に驚きます。和名の「カナ(鉄)のように強くムグラ(藪)をつくる」に納得です。雄花は花盛りで黄色い花粉を飛ばしていました。雌花は果実になっていました。カナムグラはビ-ルに苦みを付けるホップと同じアサ科カラハナソウ属でネットの写真を見るとカナムグラの果実はホップに似ていました。試しに若い実を一粒かじってみました。歯の間でプッチとはじけ、出て来た液体にはかすかに苦みがありました。しかし、ピ-ルとは程遠い苦みと香りでした。機会があれば本物のホップもかじってみたいと思いました。なお、カナムグラは棘にも気を付けなければなりませんが、その草汁に触れたりすると皮膚炎、かぶれやアレルギ-を惹き起こすと言われていますので注意してください。(会員  広谷和子)

カナムグラの蔓、雌株と果実

カナムグラの雄花



植物・花のお話 第5回  優美で涼しげな「マツカゼソウ」

ミカン科の多年草。葉は2センチくらいの小葉が3枚一組を2~3回繰り返して10センチ余りの一枚の葉(複葉)になります。夏から秋にかけて茎の先に白い4~5ミリの花をたくさんつけます。山道で数株が風で揺れるさまは優雅で涼しげです。鹿は葉の匂いが嫌いなようで食べません。小笠山では今のところ大丈夫ですが、鹿が多い大日山や八高山ではマツカゼソウが年々増えています。一面に茂ると名前のような風情は感じられません。背景が他の草の彩りをなくして土の色になるからです。多様性の大切さを私に実感させてくれた植物です。 (会員 広谷和子)

 

マツカゼソウ咲く (2021年8月27日  中山幸男 撮影)

 


植物・花のお話 第4回  物騒な名前だがきれいな花と実「オトギリソウ」

オトギリソウの花

漢字で書くと「弟切草」で物騒な名前です。昔、この草から作る秘薬を外に漏らした弟を兄が斬り殺したと伝えられています。日当たりの良い茶草場や里山でよく見る多年草で、小笠山でも見かけます。7~8月頃に直径2㎝くらいの黄色い花が咲きます。真ん中の雌しべは一つで柱頭が3本に別れています。その周りのたくさんの雄しべは長さがまちまちで線香花火のようです。遠目には気がつきませんが写真に写して拡大してみると、花弁や萼片に黒い線が、葉には黒い点があります。気温が下がると葉や果実が鮮やかに赤く色づき、これもきれいです。

(会員 広谷和子)

オトギリソウの実



植物・花のお話 第3回  大切にしたい「ムラサキニガナ」

 キク科のムラサキニガナは、林の縁で高さ1mくらいの茎を伸ばす多年草です。下の方の葉は2~4か所のくびれがある三角状ですが、上の方へ行くに従い葉はくびれが浅く、幅が細くなります。また最上部では平たい葉の先がとがり、元の方が広がる披針形になります。6月上旬から7月にかけて、茎の先に赤紫色の小花を総状に多数つけます。花の大きさは直径1㎝くらいで小さく、下向きに咲いている様子はかわいらしいです。花の後、種を風で飛ばすときに役立つ白く長い冠毛を持つ果実ができます。こちらは見事です。

地域によっては絶滅の危険性が極めて高い絶滅危惧種ΙA(CR)に指定されています。大切に見守りたい植物です(会員 広谷和子)

 

ムラサキニガナの花 (2021.7.15撮影)

ムラサキニガナの冠毛と実



植物・花のお話 第2回「タンザワウマノスズクサ」

 

タンザワウマノスズクサは、関東から東海地方の山地で見られる多年草です。オオバウマノスズクサの変種で、細くて丈夫な茎を他の木や草に絡ませて成長します。花は楽器のサキソフォンのような不思議な形です。花後にできる実が「馬に付ける鈴」に似ていることから「ウマノスズクサ」になったとか。この植物は有毒成分を含んでいますが、ジャコウアゲハの食草で幼虫はこの葉を食べて有毒成分を体に蓄えて体を守っているそうです。今回、小笠山で花が開く直前のものに出会いました。花も実も楽しみです。

(会員: 広谷和子)

タンザワウマノスズクサの花  (2021.5.12 撮影)



植物・花のお話 第1回「ヤブデマリ」

 ヤブデマリは川や沢などの湿り気の多いところに生える木です。緑の中に7~8センチくらいのくす玉のような花がありました。近寄ると白い装飾花に囲まれた多数の淡黄色の両性花が固まっていてアジサイのようでした。例年は4月の終わりから5月の初めごろ見られる花ですが、暖かい今年は早々と咲きました。8月~10月には実(核果)が赤く熟すそうです。

(参考)装飾花は萼片で雄しべや雌しべを持たないので種子は出来ません。虫を呼び寄せるため目立つように変化したものと言われています。両生花には雄しべ、雌しべがあり種子が出来ます。 

白い装飾花が目立つヤブデマリ  (2021.4.12 撮影)



昆虫のお話 第3回「特定外来生物・アカボシゴマダラ」

 

 本年8月7日、小笠山のドンドン隧道付近でエノキの木に見たことのない蝶を発見。会員の佐藤さんに聞くと外来種のアカボシゴマダラであることが分かりました。調べるとアカボシゴマダラはベトナムから中国、朝鮮半島等まで広く分布するタテハ科の蝶で、国内在来種のゴマダラ蝶にない鮮やかな赤い斑紋が特徴とありました。日本では奄美諸島に外来種と斑紋の模様が異なるアカボシゴマダラが分布するのみでしたが、1995年以降関東地方や静岡県などで見られるようになったようです。小笠山を愛する協議会の中山代表も2020年に掛川市原泉で樹木調査をしていて目撃、撮影したとのことです。この関東地方などで見られる外来のアカボシゴマダラは、研究者によれば、中国や朝鮮半島に分布するもので、誰かが国内に持ち込み、どうも放蝶したのでないかとのことです。この外来種の蝶は少なくとも年3回発生するなど繁殖力が強く、本土に生息するゴマダラチョウなどの在来種に影響を与える恐れがあり、特定外来生物に法律で指定されています。販売や譲渡、飼育等は、違法(罰則あり)とのことです。食草がエノキの葉ですので、注意深くエノキを観察すればアカボシゴマダラやその幼虫がいるかも知れません。小笠山でこの蝶を見つけたら教えてください。(理事 田中俊也)

  👆 ボタンをクリックすると国立環境研究所HPの侵入外来生物アカボシゴマダラの記事が表示されます。


昆虫のお話 第2回「朽ち木で生きるオオゴキブリ」

 

 以前、会の行事で小笠山の登山道整備をしていた時、朽ち木を除去しようと動かしたら幹が割れ、中から黒い昆虫が出て来た。大きさは4㎝位、触覚があり、脚には棘のようなギザギザ。動かないので死んでいるのか思い捕まえて地面に下ろすとゆっくり動いた。小笠山にも生息するというオオゴキブリではないかと思い、生物にも詳しい宮本先生に(里山を歩く会の会員)に問い合わせるとオオゴキブリであると連絡があった。調べるとオオゴキブリは本州、四国、九州に広く分布し、照葉樹林の朽ち木の中で生活している大型のゴキブリとのこと。ゴキブリの仲間は日本には約50種、嫌われる衛生害虫のゴキブリは6種で、他のほとんどは里山など野外で活動しているようだ。

このようにオオゴキブリは朽ち木内で生活しているため、写真のように平たく頑丈なつくり、触覚は短い。ゴキブリは約3億年前の地層からも化石が見つかり、今も古い形を保ち、「生きた化石」と言われている。ゴキブリの語源は、ふたの付いたお椀の御器(ごき)に頭を突っ込んで残飯にかぶりつくさまを見てゴキブリ」と呼ばれるようになったとあった。

私が出合ったこのオオゴキブリは動かなかった。木の中で眠っていたのか、突然暗闇から明るいところに出されビックリしたのか。家の中に現れるすばしっこい運動神経の良いあのゴキブリとは大違いだ。のんびりしていた。人間の生活空間で生きるものと自然の中で生きるものとの違いなのか。森の中で朽ち木を食べて生活しているオオゴキブリは不潔ではなく、自然界の分解者であるオオゴキブリの存在は、そこが豊かな自然林の証拠だという。小笠山にはいろいろな昆虫が生息している (中山幸男)。



昆虫のお話「水を吸う蝶」

 5月になると小笠山では様々な花が咲き、花盛りの季節になったと感じます。その花を目指し蝶がやってきます。この日は山裾の道の水の染み出しているところに何頭かの蝶がいました。長い口吻を伸ばし水を飲んでいました。花には美味しい蜜を吸いに来るのですが、水を飲む「吸水行動」も見られます。これには二つの理由があると言われています。一つは体温調節です。体温の上がり過ぎた蝶が体を冷やすために水を飲んでいるということです。この日は春だというのに朝から気温が上昇し汗をかくほどでした。水を盛んに吸水し、写真でもわかるようにお腹から水を出していました。もう一つの説は栄養成分の補給です。雄のチョウが生殖に必要な栄養素と言われるナトリウムを補給するため吸水するというものです。そういえば旅する蝶「アサギマダラ」の雄がフジバカマの花に集まり盛んに密を吸うのは、花に含まれるアルカロイドが繁殖に必要な性ホルモンの分泌に必要なためと言われています。これから気温が上昇しますので水のあるところに集まる蝶を見かけると思います。

※フジバカマに含まれるアルカロイドはピロリジジンアルカロイド(PA)

 

吸水し腹部から水を出すモンキアゲハ

 (2021.5.1撮影)



鳥のお話 第2回 自然観察会で野鳥観察も楽しみました

 少し前の話になってしまいますが、6月19日に開催されました『2021年・春の小笠山自然観察会』に参加いたしました。植物観察の合間に確認できた鳥種を表1に示しました。約3時間の間に21種類の鳥種を確認することができました。同時にどのように識別したかについてもまとめてみました。識別をする場合『鳴き声』『姿』で確認します。表から読み取れるように葉が茂るこの季節は主に『鳴き声』での識別が重要になります。なかなか美しい姿を観察することができませんが、じっくり声の観察を続ける最中に、チョッピリ姿を見せてくれるかもしれませんね。これで、鳴き声と姿を一致させ、一種づつ覚えていきましょう。

今回は、観察会中もっともよく聞こえた、ウグイスの鳴き声についてお話ししましょう。ウグイスの鳴き方は5種類あります。①『笹鳴』;「チャッ チャッ」地鳴きで冬はこの鳴き方のみで藪中から聞こえます。②『谷渡』;「キッキョ キッキョ キッキョ キッキョ・・・」囀りの一つです。➂『中音』;「ホー ホケキョ」普通の音程で始まる囀り④『上音』;「ヒー ホケキョ」中音より高い音程で始まる囀り⑤『下音』;「ホロホロホロ ホケキョ」低音で始まる囀り。以上の5種類を順不同に反復します。ポピュラーな鳥で、近くで鳴くことも多いのでじっくり観察してみましょう。なかなか見られない姿も観察できる可能性があります。また、今回の観察会では3番(つがい)のサンコウチョウも観察できました。但し声のみですが・・。この鳥は、雄も雌も囀ることが知られています。“聞きなし”は『月日星ホイホイホイ』ですが、実際には「ゲッ ゲッ ホイホイホイ」と聞こえます。ホイホイが聴こえれば間違いなくこの鳥です。初めのゲッゲッは地鳴きと同じ声です。なかなか出会えない野鳥ですが、小笠山には毎年必ず来てくれます。大事に見守りましょう。おしまいに、春夏の野鳥観察のコツは、鳥が良く囀る時間帯、日の出1時間前くらいから8時位の間に訪問することを薦めます。もっと調べるには、①声を調べるには“日本野鳥大鑑―鳴き声333 (上・下) (CD books)小学館”②鳴き声をもっと知るには“鳥の歌の科学 (自然選書)中央公論”がよいでしょう。

(会員 日本野鳥の会遠江 吉井 大)

富士見台霊園の四阿にて 20210620 撮影



鳥のお話 姿も声も美しい外来鳥「ソウシチョウ」

 新緑の小笠山を歩いていると聞き慣れない明るく歌うように囀る鳥の声がした。様子を見ているとウバメガシなどが茂る木の上を移動中だった。5、6羽はいるだろうか。それにしても軽やかで美しい声だ。暗い森で距離が有り、鮮明とはいえないがなんとかその鳥を撮した。家に戻り図鑑で確認すると、体表面の色、赤いくちばし、のどの黄色などから「ソウシチョウ」に間違えない。大きさはスズメ位か、きれいな鳥だ。以前、当会主催の野鳥観察会で講師を務めた日本野鳥の会遠江の会員から小笠山にもいると聞いたことがある。今回初めて確認した。その後も別の場所で見た。この「ソウシチョウ」は、中国やベトナムなどに生息。夫婦仲が良く中国では「相思鳥」とも。人気があり我が国に輸入され飼育されていたものが籠脱けし野生化したという。ウグイスなどの在来種に影響を及ぼす恐れがあるとされ特定外来生物に指定されている。

 (参考) 特定外来生物とはもともと日本にいなかった外来生物のうち、生態系などに被害を及ぼすものについて特定外来生物として政府が指定。飼育・栽培・保管・運搬・販売・輸入などが原則として禁止されている (環境省資料)

 

 

梢で囀るソウシチョウ (2021年4月20日撮影)