小笠山通信(No26) あなどれない小笠山、地図と道標で安全な山歩きを

雨の上がった2月26日、小笠山を歩くと森からウグイスの囀り、谷では蛙が鳴き、ヤシャブシが細長い花穂をたくさん付けていた。山歩きの好季節の春も間近だ。注意したいのが山での事故である。転倒や崖からの転落は無論だが、意外に多いのが道迷いである。先日も小笠山で道に迷ったと話す方と出会った。昨年は六枚屏風方面に出掛けた単独の高齢者が行方不明になり、警察、消防が捜索。連絡があり私も駆けつけたところ「道に迷っているのを警察が発見、下山中」との消防署の説明に安堵した。数年前には出発地に戻れず翌日発見された登山者もいた。小笠山は、標高が低いが地形が複雑で、里に近いため多くの道があり、迷い易い。あなどれない山である。かつて私も小笠山で何度も道に迷い、安全に歩くために地図と道標の必要性を痛感した。「なんとかしたい」と思い、この課題に十数年前から取り組んきた。

地図については、退職後、時間があれば小笠山を歩いてコ-スを調査し、小笠山のハイキング地図を作った。この手作り地図は山で会った人に配付した。その後、掛川遊歩会(代表鈴木久裕)がマップを作成することになり、私の地図も活かされた。遊歩会作成の小笠山マップは大変好評で版を重ね、10,500部を印刷、地域のベストセラ-である。

道標は、板と杭を自費で購入、板に行き先をマジックで書きニスを塗り、杭に打ち付け、山道の分岐箇所に設置した。その数は約100箇所。この道標は5年も経つと杭が腐り、文字は薄くなり、道標の修繕や更新が大変だった。そんなとき掛川遊歩会と小笠山を愛する協議会、天竜森林管理署が道標設置に取り組むようになった。私の手作りの道標は、業者が作成した耐用年数の長いプラスチック製の道標に徐々に置き換わった。今年は6箇所に設置する。公共性の高い道標である。土地所有者のご理解とご協力に感謝したい。

「小笠山はマップと道標があるから歩ける」との声。皆さんも小笠山マップ(販売先は小笠山を愛する協議会HP記載)と道標を活用し、道迷い等の事故が発生することのないように心掛け、山歩きを楽しんでほしい。 (代表:中山幸男)

   これまで掛川遊歩会が発行した小笠山マップ

 

手作りの道標

 

 

プラスチック製の道標



小笠山通信(第25回)  小笠山で進む砂利採取、周辺の貴重な自然を守ろう

小笠神社を訪れると「ガリガリ」と山を削る音が下の方から聞こえることがある。境内や尾根から覗くといつの間にか緑一色だったはずの森が無くなり、茶色の地面が広がっているのに驚く。砂利採取が小笠神社の北側近くまで進み、山が大きく変容しているのだ。隣接する沢は明るくなり日陰で湿潤な気候を好むシダ類は大きなダメ-ジを受けている。既に多くの動植物が失われ、この状況が進めば小笠山の核心部の動植物や生態、景観に大きく影響し、取り返しの付かないことになると懸念する。なんとかしなくてはという思いにかられる。日本植物分類学会賞を受賞し小笠山の植物に大変詳しい杉野孝雄先生は「小笠山の山頂周辺は植生的にも核心部で貴重な植物が集中している。全山を自然公園または森林公園として残すべき」と話している。また、周辺にはケスタなど小笠山特有の地形が広がり、中でも固結した礫岩の極めて狭隘な浸食谷「六枚屏風」について、静岡大学延原尊美教授は「世界的にも珍しい奇観で地質遺産である」と述べている。

今後、砂利採取・開発が西に進めば貴重な自然が更に失われる。六枚屏風などの珍しい地形への影響も心配だ。企業が行う事業で市や県の宝である唯一無二の自然を破壊していいものではないと思う。失った自然は元にもどらない。周辺は開発するのではなく、公共の利益、公益性を重視し、他にはない小笠山の自然を保全し残してほしい。土地所有者も協力していただきたい。

小笠山を愛する協議会ではこの問題を重視し、次のことに取り組んでいる。小笠神社の周辺や山頂周辺、栗原川や上小笠川などの源流部は保全する。既に開発したところは森に再生。小笠山も大浜公園や高天神城周辺のように静岡県立自然公園へ編入することなどである。

現在、この取り組みには7団体が賛同。今後、掛川市長にも現状を説明し小笠山の貴重な自然を守るために要望を行う予定である。皆様にもご理解とご協力をお願いしたい。(2023/12/3 代表:中山幸男)

砂利採取で森が喪失・山が変容(小笠神社境内から望む)

地質遺産の奇観「六枚屏風」



小笠山通信(第24回) 小笠山と地元資産で協働のまちづくり、大きな成果ハイキングマップも完成

徳川家康に関わるまちづくり活動情報交換会(会長:鈴木克壽)が8月25日に幕を閉じた。この会は、大須賀や大東のまちづくり協議会、掛川市で組織。小笠山を愛する協議会や子丑散歩会、大須賀地区子ども育成支援協議会が協力した。

南部活性化を目的に、徳川家康に関わる活動の情報交換を主に、小笠山や地元資産を活かしまちづくりに取り組んだ。ハイキングコ-スや駐車場の整備、道標設置、トイレ清掃、ハイキング、総合的学習の時間を使った小笠山の授業などが行われた。共通テ-マのハイキングマップ「歴史と緑の小笠山」も完成。掛川駅から遠州灘までの地図に横須賀城、高天神城、千手峰、楞厳寺山、小笠神社・小笠池、中村砦、三井山砦の7コ-スを紹介。説明や写真、編集など、各まち協役員による汗と智恵の結晶だ。参加者の熱意、行動力、チ-ムワ-ク、役員のリ-ダシップに感心した。

鈴木会長は、参加者への感謝とともに成果について「7つのまち協が取り組んだ。関係団体と協働できた。家康を中心に地域資産を発見できた」と話した。課題として「ハイキングコ-スの管理。交流の場拡大。横須賀城450周年をどうするか」を掲げた。「おおすかミニ役場かわらばん」の寄稿で鈴木会長は「ハイキングは子どもの頃には気づかなかった、車では味わえない小笠山の自然の豊かさや歴史を味わうことができる。家族や友人・地域等との交流が深まり、豊かな人生・健康的な生活の一助になればと願う。よい季節になったら、ぜひ歩いてください。私たちの宝、小笠山を」と記した。完成したハイキングマップが活用され多くの人が訪れ交流が深まることを願う。

この時期の小笠山は、落葉の間から数々のキノコが顔を出し、森ではツクツクボウシが鳴く。残暑は厳しいが、季節は確実に進んでいる。私は、会議参加者の「美しい小笠山でいてほしい」との声が心に強く残った。小笠山を愛する協議会では、9月16日に子隣から

六枚屏風の登山道を整備。9月23日には歴史の道を歩くハイキングを予定。これからも小笠山を楽しめ、豊かな自然が後世に繋がるよう務めるのでご支援、ご協力をお願いしたい。 (代表:中山幸男):

会議の様子

完成したハイキングマップ「歴史と緑の小笠山」



小笠山通信(第23回)   雑草という草はない、植物学者に感銘

 

NHKで朝ドラ「らんまん」が放映されている、高知県(佐川町)出身の植物学者・牧野富太郎がモデルの物語。自分を「草木の精」というほど植物愛を持ち、植物分類学の研究に打ち込み、植物知識の普及にも尽力した。多くの人に支えられ困難を乗り越え、花開く生涯にも私は惹かれる。ササユリ、ドクダミ、ノアザミ、ヒルムシロなど、小笠山で見られる花もテレビに出てくるから楽しみだ。

幼少から植物に興味を持ち、小学校を中退し独学で学んだ牧野富太郎。上京、東大植物学教室への出入りを許され研究に没頭。描いた植物の美しさに驚く。集めた植物標本は40万点、新種として名付けた植物は1500種だから凄い。「日本のすべての植物に名前をつける」強い気持ちが後押しした。書籍にケチケチせず、購入した本は4万5千冊という。朝日新聞天声人語(2023.4.25)に「貪欲に活字を吸収しながら、野山で目にした実際

の草花の姿を大切にする。知識と体験の双方を土台に新しい世界を切り開く。学ぶとはかくありたい」とあった。3200を越える植物の絵と解説が掲載された牧野植物図鑑などを発行した。知識と体験が見事に融合、成し遂げた大きな仕事、生き方に感銘する。

小笠山の近くにも立派な植物学者がいた。一人は菊川市(旧小笠町)出身の橋本悟郎氏。21歳でブラジルに渡り、植物の調査研究に取り組み、集めた標本は15万点。「ブラジル産薬用植物事典」を出版。ブラジルの牧野富太郎と呼ばれる。移民前、小笠山などで植物の調査研究に打ち込み、小笠郡植物誌や白光山植物目録などを発表した。

もう一人は掛川在住の杉野孝雄先生である。先生は植物に詳しく植物分類学に精通、日本植物分類学会賞を受賞した。「小笠山には数え切れないくらい行き、全ての谷に入り、下流から上流に向かって歩き、尾根に出ては別の谷に下り、植物を調査した」という。

小笠山の植物に大変詳しい。静岡県内の植物も調査、標本は6万点。静岡県の植物図鑑、静岡の植物図鑑などを出版。現在もNPO法人静岡県自然史博物館ネツトワ-ク理事・遠州自然研究会会長としても活躍している。

「雑草という草はない」と述べた牧野富太郎。どんな草にも名前があるということだが人にも通じる。私は富太郎が小笠山に来て植物の前にしゃがみ込み観察する夢を見た。朝ドラ「らんまん」の放映を契機に立派な植物学者の存在を知るとともに植物や自然への関心が高まればと思う。小笠山の植物・自然にも。 (代表:中山幸男)

【写真】植物学者橋本悟郎さん特別展示 (菊川市立小笠図書館・2023.5.18 撮影)

 


小笠山通信(第22回)   春らんまんの小笠山を楽しんで

5月10日、ネイチャ-ウォ-ク(6月3日・土曜日)のコ-ス調査のため小笠山に入った。

出来れば新しいコ-スをと考えた場所は、倒木や繁茂するウラジロ(シダ)で荒れていた。鎌で刈り払いをしたがもう少し手入れが必要で大勢で歩くのは無理だった。森では野鳥が盛んに囀っていた。その中に聞き慣れた「ツキ(月)、ヒ(日)、ホシ(星)、ホイホイホイ・・」声。サンコウチョウだ。今年も南方から飛来したのだ。小笠山はサンコウチョウが営巣、子育ての場所として知られる。コバルトブ-ルのアイリングとくちばしが特徴で美しい。静岡県の鳥に指定。雄の長い尾は30㎝ほどもある。数が減っているとも聞くが今年の飛来数はどうか気になる。

コ-ス調査を終え開けた所から山を眺めると山肌がパッチワ-クのように様々な緑色で染まっていた。シイやカシ、タブノキなどの芽吹きと花が樹冠に広がりブロッコリ-のようにも見える。山裾ではマルバウツギやエゴノキ、ノイバラが白い花を付けている。咲き初めは白く次第に黄色になり金銀花の別名があり甘い蜜を持つスイカズラや木に絡まったテイカカズラも咲き始めた。湿り気のある日陰では白地に紅色の筋のある唇弁状のハナミョウガの花も。かつて和紙の原料のヒメコウゾは雌花の花柱が輝き、粋な名前のハナイカダの葉には緑色の小さな実が二つ、三つ乗っていた。

野の花の多い小笠山。今春はキンランやフタリシズカの群落とも出合った。初めて見た淡黄色の花をたくさん付けたサカキカズラには感動した。牧野富太郎博士は「雑草という草はない。全てに名前がある」と述べたという。小笠山では1300種の植物が確認され、歩けば毎年新しい出合いや発見がある。私はまだ植物を知ることに精一杯で分からないことが多いが一つ一つ学んでいけたらと思う。覚えたことは小笠山を愛する協議会の自然観察会などで話していきたい。

春らんまん生命輝く小笠山。春の風を感じながら花を愛でたり、野鳥を観察したり、また森林浴やハイキング、自然観察などにも良い好季節である。 (2023.5.11 代表:中山幸男)

 

サンコウチョウ

マルバウツギ

エゴノキ


スイカズラ

ハナミョウガ

ヒメコウゾ



小笠山通信(第21回)   南部の活性化・活動盛ん「小笠山と徳川家康に関するまちづくり」

現在、大須賀で徳川家康に関わるまちづくり活動情報交換会が開催されている。

この会の目的は「小笠山、横須賀城、高天神城等、徳川家康に関わるまちづくり活動情報交換を通して掛川南部地区の活性化や魅力あるまちづくりに働きかける。小笠山及び周辺マップの作成・配付を通して、区民の余暇の充実、健康増進、郷土愛・誇りの育成等を図る」ことである。会には大須賀及び大東のまちづくり協議会、小笠山で活動する私たちの会や子丑歩会などの団体、学校、関係議員、掛川市役所から生涯学習推進課など関係課が参加している。これまで会議は5回開催され、2月3日の会議には掛川市の石川副市長も出席し「広範囲の方々が協力し南部地域を盛り上げる取り組みに感謝している。小笠山ハイキングマップ完成が楽しみ」と挨拶された。

私も毎回参加し「小笠山を愛する協議会」の活動について話す。毎回地元の熱心な取り組みと参加者の熱意に感銘、感心することも多い。一つには小笠山や地域が有する自然や歴史の資産を見つめ直しまちづくりに活かそうとしていること。二つ目は会にまちづくり協議会など様々な団体、関係者が参加、市も協力しいること。三つ目は住民が目的実現のため自ら汗をかいていることである。例えば、徳川家康が登ったという千手峰や楞厳寺山のハイキングコ-ス整備。登山口の案内表示や萩原峠への駐車場設置、コ-ス周辺や公園トイレの清掃など。大淵まちづくり協議会では楞厳寺山歴史ウォ-クを行い区民84名が参加。参加者の95%から良かったとの回答があったというから成果も素晴らしい。

南部中心の小笠山ハイキングマップ作成も各まちづくり協議会が協力し、6月下旬完成に向け取り組んでいる。B2版のマップには横須賀城、高天神城、千手峰・西大谷ダム公園、楞厳寺山、小笠山、中村砦・田ケ池公園、三井砦・大浜公園の7つのハイキングコ-スなどが掲載される予定である。

この大須賀で行われている地域の資産を活かした活動に注目し応援してほしい。私も当会も協力したい。  2023.3.26  (代表:中山幸男)



小笠山通信 (No.20) 三ツ峰南西尾根は法多山への近道、周回も可能に

先月22日、新たに整備された三ツ峰南西尾根を法多山駐車場から歩いた。駐車料金300円を払うと係の人が「登る人が急に増えた。15人位の団体や一人で歩く人もいる。何かあったのか」と話しかけてきた。事情を説明したころ納得したようだ。

この南西尾根コ-スは当会の瀧本さんが中心になり内海さんや鈴木さん、中遠登山クラブなどが協力し整備。かつてあった尾根道を辿りながら生い茂ったシダや倒木を除去、道標やテ-プを設置し安全に歩けるようになった。瀧本さんは「羊歯のジャングル、その中で最適なル-トを見付けるのに苦労した。開通したときやYAMAPで良いコ-スが出来た褒められたときは嬉しかった」と言った。暑い時期から大変な整備に取り組んだ方々に感謝したい。

コ-スは最初は少し急な登りだが、その後はアップダウンの少ない緩やかな道が続き歩きやすい。周囲にはシイノキやウバメガシ、ソヨゴ、ヤマモモ、サカキ、ヒメユズリハなどの樹木が茂る。林床にはウラジロやコシダなどが広がる。更に登るとミツバツツジやリョウブが混じり、花や芽吹きの時期も良いと思った。瀧本さんも「気持ちの良い森林浴のコ-ス」と言っている。今回のコ-ス開通で法多山やエコパを起点に法多山を周回したり、小笠山の主稜線を歩くとき三ツ峰分岐から法多山に短い時間で行くことが可能になった。これまで法多山に行くときはエコパむらさき平を経由し大回りで行っていたので助かる。

最近、主稜線の途中、中電の鉄塔がある法多山北側に「危険防止のため法多山境内への立ち入りを禁じます」の法多山尊永寺の立て札が設置された。ここから法多山に行く人がいるようだが、法多山本堂の方に直接下りないようにしてほしい。小笠山の主稜線を歩く方で法多山へ行く場合は整備された三ツ峰南西尾根の利用が近道。

コ-スは当会HPや登山アプリ等に掲載されて徐々に知られてきたようだ。私が歩いた日も下って来る人や小笠神社まで行くという人に会った。法多山駐車場~三ツ峰の所要時間は、登り1時間、下り40分位である。 (代表:中山幸男):

 

樹林帯の緩やかな道

三ツ峰南西尾根を示す道標



小笠山通信 (No.19) 新コ-ス整備で蘇った見晴台

 

小笠池西岸の高台に見晴台がある。ここは「小笠山憩いの森」のビュ-スポットの一つだが、シダが生い茂るなどで荒れ、通れなくなっていた。小笠山を愛する協議会で整備が出来ないかと考えていたところ、昨年、当会理事の瀧本さんが現地を調査、これまでの矢矧橋を渡った所から登るのではなく、昔使われていた道を探し出し再整備した。

そこで小笠神社へ初詣に行き安全登山祈願の後の1月3日、その新コ-スを初めて歩いてみた。小笠池駐車場から暗いトンネルを三つ抜け小さな橋を渡り、池の脇に付けられた道を登っていくと左上に続く道があった。見回すと木に「見晴台」の表示。道の周囲にはウバメガシやタイミンタチバナ、タカノツメ、シダなどが茂り小笠山特有の森が広がる。足元には昔階段を設置したときに使った思われる鉄杭が残る。周辺はシダが多く、生い茂るウラジロやコシダは道幅に刈り払いされていて歩きやすい。このシダは茎が丈夫なため鎌で伐採するのはなかなか大変、これだけの距離を切り開くのはかなり労力を要したはずだ。瀧本さんのご尽力に心より感謝したい。またところどころに朱色のテ-プ、滑りやすい箇所にはロ-プが張ってあり安心して歩ける。ありがたい。

ほどなく見晴台に到着。木立に囲まれた十畳ぐらいの平地には朽ちかけた長椅子などがあり昔の面影を感じる。新たに設置された可愛い万国旗が風にはためき新鮮な空気感が漂う。北に目をやれば尾根の台地上に築かれた小笠神社が見える。木漏れ日さす整備された見晴台は清々しく感じた。途中、樹間越しに富士山も見えた。

新春、初歩きで新たに整備された見晴台と池周囲を歩き、小笠池周辺には魅力、見所がたくさんあり、改めて良い所だと思った。

(2023.1.3  代表: 中山幸男)

 

整備された道を登る

きれいになった見晴台

仰ぎ見る小笠神社



小笠山通信No.18 晩秋の小笠山、冬の使者「オシドリ」飛来

晩秋の小笠山では、カラスウリやスルガテンナンショウの実が赤く色づき、クサギが赤紫の萼の中に真っ青な実を付け、フユイチゴが葉の間から赤い実を覗かせています。山裾ではリュウノウギクやヤクシソウ、センブリなどがの花が見られます。これからの小笠山はコナラやタカノツメ、ウルシなどの木々が色づき紅葉の時期を迎えます。

さて、今年も小笠山に点在する池には様々なカモが飛来、オシドリの姿もありました。オシドリはカモ科オシドリ属に分類される鳥で、日本では北海道や本州中部以北で繁殖し、冬は本州南の地域に移動する漂鳥です。雌と雄では羽毛の色が異なり、雌は全体的に淡い灰色ですが、雄は秋になるとイチョウのような飾り羽が伸び、羽毛がオレンジ、黄、赤、白などに彩られ鮮やかになります。その上品な色合いと極彩色の美しい姿は水鳥の中でも抜きんでてオシャレです。

毎年この季節になると「オシドリが来たかな」と私は気になり、重い望遠レンズを携えて小笠山の池を訪れます。オシドリは、警戒心が強く撮影するのが難しい鳥だといつも感じます。驚かさないようにそっと近づくのですが、警戒の声をあげ、池に覆い被さるように張り出した枝などの茂みに隠れてしまいます。オシドリが飛来していれば、池の水面を泳ぐだけでなく、枝に留まったり池近くの土の上を歩いたり、様々な姿が見られます。それには双眼鏡を持参して、静かに観察することが必要です。餌は植物性でドングリの実が大好物とのことです。これからもオシドリが小笠山の池に飛来するよう、植生や水辺の環境が維持されることを願います。 (中山幸男)

小笠山の池を泳ぐオシドリ (2022.11.18 撮影)


小笠山通信 No.17 台風15号の被害多数、小笠山で進む砂利採取

台風15号による9月23日から24日の大雨は、掛川市で時間雨量67㎜、24時間総雨 量は274 ㎜に達した。このため大きな被害が発生した。小笠山でも県道や林道等で 多くの土砂崩れがあり、登山道では樹木が倒れたりするなど被害があった。 小笠山は普段は自然がいっぱいの静かな山だが、水害の記録も多く、昔から荒れ る山として人々に恐れられていた。原因は山火事や乱伐で山肌がむき出しになり降 った雨が一挙に出水、水害が発生すると資料に記載がある。このため治山治水事業 が行われてきたが、近年は異常気象が頻発、雨の降り方は線状降水帯が発生するな ど予想がつかない。時間雨量が100㎜、総雨量が400㎜~500㎜と15号台風の倍近くに なっても不思議ではない。山の開発や森林の伐採など水害の原因となる事業には、 より慎重な対応が求められる。 さて、会員からの指摘もあったが、小笠山で行われている砂利採取を見に行くと小笠 神社の下まで進んでいて驚いた。あったはずの尾根が無くなり、山は削られ茶色のグラ ンドのような地面が大きく広がり、残したい緑豊かな自然林が無くなってしまった。辺りの 山域は、多様な動植物を育む小笠山の核心部である。また数十万年という年数で形成さ れた特徴ある地質や地形もあり、小笠山で最も大切にしたいところだ。 このままでは小笠山の貴重な場所・魅力ある資産を失い、取り返しのつかないことに なるのではと危惧した。豊かな小笠山の自然を後世に残すことも目的とする当会として も、憂慮する大きな問題である。もちろん砂利採取は事業の承認を得て進められている のであるが、会社の都合だけでどんどん自然が壊されて良いのか。ここには自然や環 境、景観、災害防止等、高い公益性が存在するのではないか。深く考える必要がある。 今後の事業認可次第では、奇観「六枚屏風」近くまで進む恐れがある。小笠山の魅力、 貴重な自然が失われる事業は止めてほしい。当会としては、小笠山の砂利採取の状況を 調査するとともに、会員を始め行政や関係者に説明するなど、小笠山の自然を守るため に取り組んでいきたい。(代表: 中山幸男)    写真:砂利採取(左奥が小笠神社、正面尾根の下が六枚屏風周辺) 


小笠山通信 No.16

小笠山では夏を代表するイワタバコの花が終わり、クサギやタマアジサイ、センニンソウ、ボタンズルなどが咲く頃となった。今夏は暑く、雨の日も多い。不安定な天候の影響か、小笠山では倒木情報が多い。三つ峰の近くでもあったが、六枚屏風への下り口近くの尾根で大きなコナラの木が倒れ登山道を塞いだ。掛川市に相談しているが、解決方法を見つけて安全に歩けるようにしたい。

さて、自然豊かな小笠山を活用し地域の活性化を図ろうとする取り組みが掛川市南部で進められている。小笠山通信NO12でも紹介したが、高天神城址西の楞厳寺山登山道整備を地元の子丑山歩会がまちづくり協議会の協力で進めた。また、大須賀地区では徳川家康が登ったという千手峰の山頂を富士山や太平洋が望めるように整備し、分岐箇所には道標を設置。4月23日には延原先生(静大教授)と小笠山を歩き小笠山の成り立ちや地質(概要はHP地質に掲載)について学んだ。先生からは高天神城付近でオオシラスナガイという貝化石が産出するのでこの付近が当時水深200m位の深い海の底だったと説明があった。7月8日には「徳川家康に関わるまちづくり活動情報交換会」が大須賀で行われ、地元のまちづくり協議会や小笠山で活動する団体、掛川市担当課等が参加、小笠山に関する事の情報を交換するとともに、小笠山ハイキングマップを作成するため意見を出し合った。

このように市南部では小笠山を活かし地区の活性化や魅力あるまちづくりを図る取り組みが進められている。「ブラタモリ」や「吉田類のにっぽん百低山」の誘致なども語られるなど意気軒昂。この取り組みが、小笠山を地域資産として捉え、住民の健康と幸せ,郷土愛を育むこと等を目的に、まちづくり協議会が協力、あるいは主体になって取り組んでいることが素晴らしい。そして事業に関わる役員・関係者の行動力・積極性、志しの高さに私は感銘した。当会としてもこの活動・事業に注目、応援したい。  (2022.8.26 中山幸男)

千手峰(大須賀)ハイキングコ-ス整備の様子

オオシラスナガイ(高天神城付近産出)

この二枚貝は現在駿河湾水深 200m の海底に生息していることから、貝が産出する高天神城周辺は当時深い海の底であった証拠

大きさ 殻長2㎝前後

 



小笠山通信  No.15 花リレ-「カギカズラからキツリフネ、イワタバコへ」

年々関心の高まるカギカズラの花。花は終わったが、今年はいろいろな所で咲いた。カギカズラは千葉県以西に分布する南方系植物で小笠山にもある。かつて私はこの花を見たいと思い、毎年探したがかなわずにいた。ところが3年前、ついに蕾を付けたカギカズラを発見。開花時に訪れるとアカガシの上に伸びた蔓や垂れ下がった蔓にびっくりするほどたくさんの花を付けていた。初めて見る花、壮観な花姿に感動。植物の権威、杉野孝雄先生にも見ていただくと「こんなに見事に花を付けたカギカズラは初めて見た」と話された。観察後、先生と斜面を下り、根元を測ると56㎝もあった。蔓としては太い。かなりの樹齢だ。桃栗3年柿8年という言葉があるが、カギカズラは開花までにかなりの年数を要するのではと考えた。この珍しい花が、今年は林道沿いのいくつかの場所で咲き、近くで見ることができた。数年前までは探しても見つからなかった花なのだが、年数が経ち成長し、花を付けたのではないか。

カギカズラの花は、小花が球状に集まり、薄黄色で見応えがある。枝には鋭い棘があるが、樹木に詳しい鈴木久雄氏から「棘は2個のものと1個のものが交互に付く」と教えていただいた。棘には有用成分があり、製薬名「チョウトウコウ」と言い、高血圧等の改善に使われるという。近年は認知症の予防効果の面で関心が高まっているようだ。旺盛な生育力と鋭い棘で歓迎されないが、大切な薬用植物だ。

花のリレ-が続く小笠山。カギカズラやオカトラノオなどの花は終わったが、帆掛け船を吊り下げたようなキツリフネが林道沿いで咲いている。7月後半にはイワタバコが水の滴る崖で紫紅色の花を付ける。タマアジサイも。8月6日の自然観察会が楽しみである。(2022.7.9  中山幸男)

カギカズラ

キツリフネ

イワタバコ



小笠山通信  No.14 「危険な生き物に注意」

この時期になるとスズメバチやヤマビル、マダニに関する情報が多くなる。自然豊かな小笠山だからこそ、危険な生き物も生息している。イノシシやマムシもいる。20年余小笠山を歩いている私は、そのいずれとも遭遇。被害にあったことも、危なかったこともある。

その中で危険なのはスズメバチだろう。コナラの樹液を吸っていたり、目の前に飛んできたりする。以前、山道の木の根元にスズメバチがいたことがある。どうも巣があるらしく、門番が様子をうかがい、出入りするハチもいた。驚かさないように静かに通り過ぎたが、今考えると危なかった。巣に近づくと攻撃される場合があるから、迂回するか、戻るのが正しかった。スズメバチは黒いものに反応するため、服装は黒を避け白いものがよく、肌をださないようにしたい。近づいてきたら手で振り払うのはもってのほか。遭遇したらその場を離れること。野生生物による死亡事故が多いのはクマではなくハチとのこと。攻撃性が高く、強力な毒を持つスズメバチには特に気を付けたい。

やっかいなのはマダニだ。刺されたところが赤くかゆくなり、自宅で気付くことが多い。私は撮影や植物調査で森や草の中に入ることが多いせいか、マダニで皮膚科を3度受診、咬まれたマダニを除去してもらった。マダニには媒介する感染症があるから注意しなければならない。ズボンの裾を靴下で覆ったり、手袋をしたり、忌避剤(虫除け)を使用するなどの対策がある。

ヤマビルも気になる時期だ。沢の道や湿った山道に生息、冬は活動しないが、春から秋は注意が必要。ヤマビルで死ぬことないが、食いつかれると血が出て傷口が治りにくい。対策はダニ類と同じく、ズボンの裾を靴下で覆ったり、手袋をしたり、忌避剤(虫除け)を使用したりで予防したい。塩や飽和食塩水も効果がある。

イノシシとは2回遭遇。驚いたのは尾根で撮影中だ。私の背後でガサガサという音。近づく音に何事かと身構えたが、イノシシが私の近くを通り、斜面を転がるように下って行った。小笠山でもイノシシが増えた。気を付けたい。

またマムシも生息。登山道に現れることもある。ある年の夕方、私は山道にいるのを見つけ驚いたことがある。私の足音に気付き、マムシは尻尾を振り、鎌首を上げ威嚇してきた。逃げ去るのをじっと待った。周囲に注意して歩きたい。

小笠山にも危険な生き物が生息しているので十分注意してほしい。(2022/6/9 中山幸男)

 


小笠山通信  No.13「小笠山に大きな変化、地域資産として活用も」

 5月連休は天気も良く、多くの人が小笠山を楽しんでいた。若葉色の森が広がり、モチツツジが薄紫色の花を付け、マルバウツギの白い花や黄色のジャケツイバラなどの花が見頃だ。素晴らしい自然があり、人々が憩う小笠山を大切にしたいものだ。

 最近、その小笠山に大きな変化が見られる。景観や野鳥などへの影響がある風力発電計画や植生への影響が大きい砂利採取地拡大の事業が進む。その一方で、小笠山を地域資産として捉え、まちづくりを進めようとする地元の取り組みがある。今回はこの明るい話題である地元の取り組みを紹介したい。

 その一つは、高天神城址の西にある楞厳寺山(りょうごんじさん)周辺の登山道を地元の子丑山歩会がまちづくり協議会の協力を得て整備したことである。頂上から富士山や遠州灘を望めるようになった。整備の様子やコ-スなどは大東北公民館に展示し紹介している。この取り組みは、一等三角点があり徳川家康が登ったと伝えらる歴史的にもロマンある楞厳寺山を地元でも見つめ直す機会になったことだろう。

 もう一つは大須賀第一地区まちづくり協議会による、小笠山、横須賀城・高天神城の情報交換などを通して掛川市南部地区の活性化と魅力あるまちづくりへの取り組みである。資料によると小笠山南部及び城下のハイキングマップ作成などを計画、区民の余暇の充実・健康増進、郷土愛・誇りの育成等を図るというのである。また、家康が登ったという地元の山「千手峰(せんじゅみね)」も整備。NHK「どうする家康」での紹介、その先には「ブラタモリ」や「吉田類のにっぽん百低山」の誘致なども視野にあるようだ。3月23日には「延原先生(静大教授)と小笠山周辺を歩く会」を計画し、私も参加。参加者は小笠山、高天神城・横須賀城周辺を歩き、その価値や良さを理解すると共に活用方法について考えた。その時配付した資料「小笠山一帯の地形と地質」は、小笠山を愛する協議会ホ-ムペ-ジの地質に掲載した。

 以上の二つの取り組みに私は接し、活動する方々の熱意を強く感じた。地元にある地域資産、宝物に着目し、それを活かしたまちづくりを進めていることは素晴らしい。当会としても、会の目的である、小笠山を楽しむことが出来、豊かな自然が後世に繋がることを目指し努力したい。(2022/5/3  中山幸男)


小笠山の地形や地質を観察する参加者(2022.3.23)


小笠山通信  No.12「春の息吹を感じる小笠山。安全第一に」  2022/4/17

 4月17日、コ-ス調査も兼ね犬戻り、六枚屏風を歩く。お寺があったと言われるタカツクまでは問題ないが、主稜線に繋がる犬戻りと名付けられた尾根は、幅が数十センチしかないやせ尾根で両側が切れ落ちていて危険だ。入口には立ち入りを防ぐロ-プがある。一方、栗原川最上流にある六枚屏風は奇観で訪れる人が多い。一人がやっと歩けるほどの狭い回廊のような谷が奥に続く。ひんやりした空気が漂う。切り立った両側は砂利混じりの固着した小笠砂礫層がむき出しになっている。

途中、山の斜面から株ごと落下した樹木で大きな段差がある。登るには足と腕の力が求められる。谷の奥には登山道はない。ここは無理をしないで戻るのが正解だろう。六枚屏風入口に尾根から下るところでは転落事故が発生しており、内部での落石なども含めて十分注意が必要なところだ。山を楽しむには安全が第一である。

この日、自然林に覆われた小笠山では、春先に芽吹いた草木がみずみずしい若葉色の葉を広げていた。鳥の囀りや様々な野の花も訪れる人を迎えた。ミツバツツジに代わり、モチツツジやヤマツツジの鮮やかな花が目に飛び込んでくる。今年もウワミズザクラが枝先にブラシのような花穂の白い花をいっぱい付けた。ヤブウツギの赤紫色の花、小さな白い花がたくさん集まったコバノガマズミやアオダモの花も。湿り気のあるところではホウチャクソウが花を吊り下げていた。個性溢れるスルガテンナショウには足が止まる。性転換をする珍しい植物だ。これからも春の息吹を感じる小笠山が楽しめる。(中山幸男)

モチツツジ 

ヤブウツギ

ウワミズザクラ



小笠山通信  No.11    「満開のミツバツツジ、これから見頃のヒカゲツツジ」    2022/4/5

 3月末になると小笠山で咲くツツジが気になる。今年の開花の情報を集めたり、様子を見に目当ての場所を訪れたりする。ミツバツツジは予想通り3月末に咲いた。

尾根や稜線を歩くと随所で紅紫色の花をたくさん付けている。雄しべは5本だが、中には10本のコバノミツバツツジもある。ミツバツツジの花は4月上旬には終わり、枝先に3枚の可愛い新葉が並ぶ。次に咲くのがヒカゲツツジ。日陰に咲くツツジが名の由来で、小笠山には崖のある険しい尾根に多い。シャクナゲに似た葉の間から伸ばした枝の先に1輪から3輪の花を付ける。花色は薄い黄色。今年は寒さの影響でヒカゲツツジの開花が遅れていたが、5日にどんな状況か見に行くと、開花し始めていた。これから1週間くらい楽しめると思う。黄色系の珍しい花のヒカゲツツジは小笠山を代表する花、大切にしてほしい。(中山幸男)

 

満開のミツバツツジ 2022.4.5撮影

これから見頃のヒカゲツツジ 2022.4.5撮影



小笠山通信  No.10    「樹名板の設置」    2022/3/13

季節は3月、日ごとに暖かくなり、閉じていた植物の蕾も膨らんできた。これから小笠山ではタブノキの赤い新葉が見られ、キブシやショウジョウバカマなどの早春の花が咲き、続いて様々なツツジが開花するなど、山は春色に染まる。

さて、小笠山を歩いて気づいた方もいると思うが、ところどころ樹木に名前の書かれた板が付いた。これは天竜森林管理署掛川森林事務所が国有林内にある自然歩道沿いの主な樹木の名前が分かるように付けた樹名板である。藤戸森林官を始め職員が、使われなくなった板を加工し、その板に手書きで樹木名を書いた。樹木名が漢字で書かれ、その下にカタカナで丁寧に書いてある。漢字で表記してあるため木の特徴も知ることが出来るし、手書きの文字は親しみやすく、白い文字も落ち着いている。森に溶け込んむような樹名板が素敵だ。

この樹名板設置については昨年、藤戸森林官から私に話があり、樹名板を付けてほしい木を選んだり、分からない木の名前を調べたり、「小笠山を愛する協議会」や「掛川名木巨樹に親しむ会」の仲間とともに協力してきた。

小笠山の国有林の面積は700haあり、保健保安林に指定、そのうち約40haは自然観察教育林に指定。そこは良好な自然環境が保たれ、植生が豊かで様々な植物が生育している。昔から植物研究のフィ-ルドにもなってきた。小笠山らしい樹木も多い。小笠山の楽しみ方はいろいろあるが、大きな樹木や知らない樹木との出合いにも興味が湧くものだ。樹木の名前が分かれば山歩きも更に楽しくなると思う。小笠山国有林を管理するの天竜森林管理署の取り組みに感謝である。大変ありがたい。(中山幸男)

 



小笠山通信  No.9        2022/1/22

「138度線からの大展望」

冬の小笠山の楽しみの一つに山岳展望がある。入山した1月21日は雲一つない好天だったが、木々を揺らす強い「からっ風」が吹き抜けていた。耳にあたる風は冷たく立ち止まると寒い。しかし歩いていれば身体が温まり寒さが気にならない。コウヤボウキの赤紫に色づいた綿毛、幹の捩れたネジキや葉を落としたタカノツメの冬芽などを見つつどんな景色がみられるか期待し歩いた。

小笠山は樹林に覆われているが、ところどころ展望が得られる。中でも小笠山トンネル近くの東経138度線に位置する展望台は北側が大きく開けており、素晴らしい眺望が期待できる。展望台から北を望むと眼下に緑濃い森が市街地の方に広がる。視線を上げると黒っぽい色の八高山や大尾山、粟ケ岳などおなじみの山々が連なる。その奥には白銀の南アルプスの山々。馬の背のような八高山の左側が上河内岳、中央には平らな屋根のような形の聖岳が堂々と聳える。その右に赤石岳が少し顔を覗かせる。

この日は富士山が千葉山(島田市)の右後ろに裾野を広げ秀麗な姿を見せていた。数日前は真白な富士だったが、今日は黒い山肌が露出し縞模様に見える。強い風が山肌に積もった雪を飛ばしたのだろう。この時期だからこそ見られる大眺望に満足した。

展望台には会員の佐藤宏氏が原図を書き、掛川観光協会と掛川遊歩会が2012年に設置した展望板がある。佐藤氏は機械製図に従事したこともあり、現地に足を運ぶとともに、市販の地図から距離、角度等を基に精緻な図面を描き上げた。佐藤氏は「根気が必要だが誰でもできる」と話すが、佐藤氏だからできた力作である。ここから見える聖岳、赤石岳、光岳、富士山は日本百名山、上河内岳は日本二百名山、黒法師岳と高塚山は日本三百名山。茶臼岳や山伏は確認できなかった。見える山の名を判定することを「山座同定」というが、展望台に登り、知っている山、知りたい山や気になる山をこの展望板で確認するのも楽しい。ここは登山者に人気があり、撮影中にも7人が訪れた。小笠山を歩くとき訪れて眺めを楽しんでみませんか。 (中山幸男)

 


小笠山通信  No.8

小笠山で気になっている山に「楞厳寺山(りょうごんじさん)」がある。先月の静岡新聞に地元の登山愛好家や、まちづくりの団体のメンバ-が楞厳寺山の山頂に看板を設置したとの記事が載った。以前、地元在住の友人が「楞厳寺山は一等三角点があり歴史もある良い山だ。多くの人に知ってもらいたい。道の整備などに取り組みたい」と電話してきたのを思い出した。看板設置の新聞を見て地元資産を活かす活動がスタ-ト出来て良かったと私は思った。

11月26日、私はその楞厳寺山まで歩いた。高天神城址北側の搦手門近くの駐車場をスタ-ト。長い階段を登り高天神社へ。高天神城址は、戦国時代に武田と徳川が激しく戦った所。城址には当時を偲ぶ様々な史跡があり、訪れる人も多い。高天神社近くの馬場からは南が望め、菊川流域に広がる平野から遠州灘までの眺望が素晴らしい。近くに「甚五郎の抜けの道」の看板があり、「戦国時代、高天神城の落城を武田勝頼に知らせるため横田甚五郎が馬で通ったところ」との記載。その甚五郎の抜け道を西に進む。細い尾根道は、両側が急斜面、崖もある。犬戻り猿戻りの地名もある。こんな痩せた険しい尾根道を甚五郎は馬で駆け抜けたのだ。驚くとともに、もの凄い形相の甚五郎を思い浮かべた。尾根の周囲には小笠山特有の植生が広がる。ウバメガシが多く、タイミンタチバナ、ソヨゴ、ヒサカキ、コナラなどが混じる。黄色く色付いたカクレミノやタカノツメ、ミツバツツジの葉、赤褐色に染まったモチツヅジの葉に秋の深まりを感じる。登っては下ること4回。ヒトツバやヤブコウジなどが群生する急傾斜の道を登ると標高220mの楞厳寺山の頂上に着いた。所要時間は高天神社から50分。広い頂上にはカシやコナラ、カクレミノ、ヒサカキなどの樹木が茂る。展望は望めない。その中で地元で設置した手作りの立派な看板が輝いていた。近くには一等三角点の大理石の標石、少し北側に大きなコンクリ-ト製の「菱形基線側線点国土地理院」と書かれた標柱があった。菱形基線側線点とは聞き慣れないが、地震予知に利用するため水平方向の変動を調べるためのものだという。現在はGPS測量になり使われていないようだ。楞厳寺山までは道もしっかり付いているが滑りやすい所もあり、慎重に歩きたい。随所にあるピンクのテ-プや道標が安心感を与えてくれてありがたい。高天神城址の西にあり徳川家康も登ったと伝えられる楞厳寺山。その面影を見つけることはできないが、やはり山名が気になる。楞厳寺は仏教寺院の名称で各地に同名の寺院があるとのことなどから、この山は寺院と関係のあるのではないかと私は思った。山名の由来を知りたい。

ここ高天神の森は、静岡県「ふるさとの自然100選」に選定されており、常緑樹の森が広がり、城址とともに周辺には植栽されたモミジやサクラなどもあり、四季を通して楽しめる良いところである。(2021.12.1 中山幸男)

楞厳地山(中央が三角点、右が菱形基線側線点)

地元で設置した看板



小笠山通信  No.7

ハリギリやウルシの葉が色づき始めている小笠山。前回アサギマダラについて書いたが、秋の小笠山の楽しみの一つに旅する蝶のアサギマダラとの出合いがある。10月23日の自然観察会でも何度もその姿を見ることができた。食草のキジョランの葉の裏に、生まれたばかりの小さな幼虫を見つけて参加者は歓声を上げた。今年は暖かかったせいか例年より飛来が遅れていたが、10月中旬から下旬にかけて飛来数がぐっと増えた。2011年からの私の観察では、吸蜜する花はヌマダイコン、ノコンギク、セイタカアワダチソウ、アザミ、コセンダングサ、コウヤボウキがある。今は開花時期の遅いコウヤボウキの花に留まり蜜を吸っているのを見ることが多い。小笠山に飛来するアサギマダラは雌が多い。我が家にあるフジバカマの花で吸蜜しているのは雄だ。雄は性ホルモンの分泌に必要なピロリジジンアルカロイド(PA)を吸収するためフジバカマに集まるようだ。小笠山に多くの雌が飛来するのはキジョランの葉に卵を産み付けるためではないかと想像する。10月31日には掛川西高の自然科学部の生徒と小笠山を歩き自然観察を行った。このフィルドワ-クに参加した生徒たちは生き生きとしていた。その時も目の前にアサギマダラが飛来し、「初めて見た。写真に撮れた」と大喜びだった。小笠山ではコウヤボウキが咲いている11月上旬頃まで見られと思う。小笠山に飛来したアサギマダラはこれからどんな旅を続けるのだう。興味はつきない。(2021.10.31 中山幸男)

アサギマダラの幼虫

ノコンギクで吸蜜するアサギマダラ



小笠山通信  No.6

10月7日、アサギマダラが我が家に初飛来。翅の性標に黒班のある雄だった。小笠山にも来ているはずと林道を歩いてみた。林道沿いではススキの穂が開き始め、アサギマダラが吸蜜に来るヌマダイコンは随分増え、枝先に小さな白い花をたくさん付けていた。これは期待出来ると注意深く見て歩いたが、アサギマダラと出合うことはなかった。私は2011年から小笠山でアサギマダラを観察している。早い年では9月末に飛来し、ヌマダイコンの花などで蜜を吸っている。今年は遅れているが、10月に入っても暑い日が続いている影響もあるのではないか。アザギマダラは暑さが苦手で夏は標高の高い涼しいところにいる。気温の低下とともに日本列島を南下、南西諸島に向かう途中、小笠山にも飛来する。倉真で「アサギマダラの里」づくりに取り組む当会の佐藤典雄幹事に今年の飛来状況を聞くと「10月1日が初飛来、8日は10頭位がフジバカマの上を舞っていた」とのこと。アサギマダラが吸蜜に訪れるセイタカアワダチソウの花も咲き始め、これからが本番だ。アサギマダラは小笠山でキジョランの葉の裏に卵を産み、孵化した幼虫は冬を乗り越え、春に蛹になり羽化している。アサギマダラの観察も楽しみである。山裾ではホトトギスの花が咲き始め、オミナエシ科のオトコエシ、キク科のヒヨドリバナは今が見頃。また林道沿いでは、イヌタデ、ボントクタデ、サクラタデなど様々なタデが花を付けていた。イタドリの実が逆光で白く輝く様子は印象的だった。

 

ホトトギス咲き始める

輝くイタドリの実



小笠山通信  No.5

 9月中旬、エコパ自然歩道、国有林北林道と主稜線、小笠池遊歩道を歩いた。エコパ自然歩道は、整備が行き届いており安心して歩ける。そのため何時訪れても多くの人と出会う。歩く人、走る人等様々だ。小笠山で一番人気のある自然歩道だと思う。ここのヤマザクラは早くも色づき始めた。歩道沿いでは、ヤブタバコ、シュウブンソウ、ヒヨドリバナ、ミズヒキなどの花が咲く。ミズヒキはシロバナが多い。駐車場周辺の山裾ではタラノキの白い花が目に付く。小笠山国有林北林道に向かうと、秋の七草のクズが満開だ。香り豊かな花、私にはワインの香りがする。その葉にはクズの葉が好物のツチイナゴの幼虫がいた。翅がないのでフキバッタかと思ったがそうでは無かった。林道沿いではピンクの花のママコノシリヌグイ、白い花のキツネノマゴやオミナエシの仲間のオトコエシが咲く。今年はキンミズヒキの当たり年か、随所で黄色の花が見られた。途中、出会った知人が「サンコウチョウがギイ(地鳴き)」と鳴いていたと話した。雄の長い尾羽は抜け落ち、秋には南方へ旅立つ。今年は小笠山で何羽育ったのか。無事目的地に着いてほしい。尾根を登った主稜線の橋からの眺めは最高だ。北側は市街地方向に海のように森が広がる。南アルプスは雲で見えないが、中央に粟ケ岳、右に千葉山、左に八高山や大尾山などの周辺の山々が黒く見える。眼下には色づいたヤマザクラも見えるが、紅葉はまだだ。黄緑色から深い緑の森が広がる。南側には中尾根(菩提尾根)が横たわり、ここも一面の緑だ。橋の周辺ではキヅタが蕾を膨らませ、テイカカズラが長い実をぶら下げ、イタビカズラが球形の実を付けている。森の中では「オ-シッツク、オ-シッツク・・・、ツクツクオ-、ツクツクオ-・・・」と私には聞こえるツクツクボウシが盛んに鳴いている。国有林の林道で発生した複数の土砂崩れは、天竜森林管理署により全て撤去されていた。歩行に支障はなくありがたい。一方、小笠池遊歩道だが矢矧橋が通行禁止のため途中まで行き引き返す。道沿いやはぎでは紫色の小花の周りに白い装飾花を付けたタマアジサイが咲いていた。モミジガサが長い茎に白い筒状花をたくさん付けている。ヌマダイコンが咲き出し、9月末にはアサギマダラが花の蜜を吸いに来るだろう。この時期、山裾では赤とんぼが乱舞。この光景を見ると秋を感じる。天候が落ち着けば気持ちの良い山歩きが出来ると思う。 (2021/9/15 中山幸男)

 

 

クズの葉のツチイナゴの幼虫

群生するキンミズヒキ