樹木の紹介(第23回) 夏の花から実の頃まで楽しめる「クサギ(臭木)」

山裾では8月になると枝いっぱいに咲く白い花があちこちらで見られる。なんの花だろうか。日本全国に分布するシソ科落葉低木のクサギである。

クサギの花は遠くから見ると白いが、近づくと赤が混ざり形も面白いことが分かる。赤みがかった筒部の元には萼(がく)、その先に白い花びらがある。花びらは5裂し4本の雄しべ、雌しべが外に飛び出ている。花には甘い香りがあり、アゲハチョウなどが蜜を求めて集まる。葉は大きく三角状のハ-ト形。葉には独特の臭気があり、この臭い匂いからクサギ(臭木)の名が付いた。悪臭と言う人もいるが私にそれほどではなく、ピ-ナツを煎ったときの香ばしい香りに感ずる時もある。

花の後にできる果実は球形。萼は果実期にも残り、実が青く熟す頃には赤く色づく。赤い萼と青い実のツ-トンカラ-は美しい。山でこの姿に出合うと私は惹かれ撮影したくなる。色づいた果実は草木染めに利用する。媒染剤なしで水色に染めることができる。若葉は山菜、枝や葉は薬用になるなど、なかなか利用価値の高いクサギである。

生育地は開けたところが多く、荒れ地に最初に侵入する先駆植物(パイオニア)のひとつである。夏、照りつける強い太陽を受け枝先に多数

の花を付け咲き誇るクサギには強さ、生命力を感じる。 (2023/8/19 代表:中山幸男)



樹木の紹介(第22回) 花も幹も芽吹きも紅葉も美しい「リョウブ(令法)」

7月上旬頃、小笠山で見られる花の一つにリョウブがあります。枝先に小さな白い5弁花をたくさん付け穂状になり咲いている姿は目立ち、美しいものです。

この落葉小高木のリョウブは、奈良から平安時代に、飢饉に備え、植栽や若葉の貯蔵を命じる官令が出されたことから「令法(りょうぶ)」の名がつきました。古い名・別名を「はたつもり(畑積もり)と言い、田畑の面積に応じてリョウブを植栽したと言われています。食べられるのは柔らかい若葉で、かつて御飯にまぜ食べたことから「リョウブ飯」の言葉もあります。

木の幹は、堅くて樹皮は剥がれやすくまだら模様になり、すべすべしていて美しいです。床柱に使われることもあります。サルスベリやナツツバキと似ているため慣れないと区別が付きにくいのですが、花の咲く時期に見れば、その特徴からリョウブであることが分かります。花には、蜜源植物として様々な昆虫が集まります。アゲハチョウが何頭も蜜を吸っているのを見かけることもあります。美味しいのですね。黄色に輝く芽吹き、色づく紅葉も美しく、年間を通して楽しめる木です。リョウブは小笠山にたくさん自生していますので見てください。(代表:中山幸男)



樹木の紹介(第21回) 美しい球状の花、重要な薬用植物「カギカズラ」

小笠山にはアカネ科のカギカズラという常緑つる性植物が多く生育している。6月中旬頃、直径2センチ位の球状の形をした淡黄色の花が咲く。花は小さな細長い花が集まった球状の形で、頭上に伸びたつるの先に吊り下がり咲く多数の花は見応えがある。花からは雌しべが飛び出すユニ-クな形も見る者を惹きつけ、開花を楽しみにしている人も多い。つるには名前の由来となった釣り針のようなカギ状のとげがある。とげの付き方は規則的で、ひとつ付くと次はに二つ付くという珍しい特徴がある。このとげを他の樹木にひっかけ、できるだけ多くの太陽光を受けるため上の方によじ登っている。

小笠山で調査したところ、様々な場所でその姿があり、大きなものは幹回りが57㎝もあった。カギカズラの生命力を感じた。一方、林業では樹木に絡まるなどでやっかいなものとしていやがられるが、房総半島以南に分布する南方形の珍しい植物。京都市の「松尾大社カギカズラ野生地」は市の天然記念物に指定されている。

とげには鎮痛や高血圧などへの薬効が有り、生薬名は「チョウトウコウ」いい、薬として利用されている。私の知人は「カギカズラのとげを売るため山で採取している人に会ったことがある」と話した。調べると、買い付けに中国から日本に来ていた時代もあったようだ。現在では日本で必要な薬としての原料は輸入に依存しているようだ。近年、とげには脳血管障害による認知症の改善に効果があるとの研究もあり、医療面で注目されている重要な薬用植物である。 (2023.6.3 代表:中山幸男)



樹木の紹介(第20回)   プラントハンタ-もビックリ、雌雄異株の「アオキ(青木)」

小笠山を歩くとアオキが多いと気付くと思う。日陰に生える高さ1~2m位の常緑低木で湿り気のある所にたくさん生えている。このアオキは我が国に古来からある木。学名がAucuba japonikaで、アウクバはアオキバ(青木葉)がなまったものといわれていることからも日本原産であることが分かる。

年中緑の葉を広げる常緑樹のアオキ。春になると小さな花が枝先にたくさん咲き、冬には真っ赤に色づいた実を付け美しい。従ってアオキは欧米ではたいへん人気のある樹木のようだ。こんな逸話もある。アオキがプラントハンタ-によって江戸時代にヨ-ロッバに渡ったが、実を付けなかった。なぜなのか不思議に思ったと思う。この木が雌雄異種であることを知らず雌株だけ持ち帰ったためだ。これに気付いたイギリスのロバ-ト・フォ-チュンは幕末の1860年に来日し、アオキの雄株を本国に持ち帰り、真っ赤な実を付けさせることに成功したという。

春、咲いた花をよく見ると雄花には黄色の葯をつけた雄しべ4本がはっきり見える。また雌花には雄しべはなく紫褐色の花弁の中に柱頭がある。雌株の葉の間から顔を覗かせる赤い実は美しく被写体としても魅力もある。私はある年初雪が小笠山にも降り、葉の上にうっすらと積もった雪に、ひときわ映える赤い実を撮影したことがある。イメ-ジ通りの納得いく写真が撮れたので写真集「生命輝く小笠山の四季」に掲載した。感慨深い樹木の一つである。 2023.4.18  (代表:中山幸男)

アオキの雄花

アオキの雌花

色づいた実



樹木の紹介(第19回) 街路樹にも使われる「クロガネモチ」

クロガネモチは山に自生するほか、庭や公園、街路樹などによく植えられます。小笠山でも野生らしきものを時々見掛けますが、本当に野生かどうかは分かりません。

この樹木は、関東地方以西の日本国内をはじめ、東南アジアの暖帯から亜熱帯に広く分布するモチノキ科、モチノキ属の常緑高木です。掛川市内にも大木があり、樹高10m、幹回り3mを越すような巨樹があります。この木は雌雄異株で、雌の木には赤い実がなりますが雄の木には実がなりません。この実は鳥には美味しくないのか、千両や万両よりも遅くまで残っています。また、木の特徴として若い枝や葉柄が紫黒色をしていることで、これがクロガネ(黒鉄)の元になったようです。

子どもの頃、家の近くにクロガネモチの大きな木があり。「イヌモチ」と呼ばれていました。イヌが付く名前はどちらかというと良くないものに付けられるようですから、なぜこの木にイヌを付けていたのかいまだに分かりません。 (2022.12.20 会員: 佐藤宏)



樹木の紹介(第18回) 神前に捧げられる「サカキ」

サカキを知らない人はないと思いますが、小笠山でもあちこちで見られます。サカキは分類上、サカキ科サカキ属の小高木です。小高木といっても大きなものは幹周が1mを越したり、樹高が10mを越すものがあります。

この木の樹皮は赤銅色をしているので、ひときわ目立ちます。花や果実は地味ですが、花は6月~7月に葉腋に白い5弁花を付けます。果実は10月頃、直径7~8mm程度の黒紫色をした丸い実を付けます。葉は全縁で鋸歯がなく、枝先の芽は細長く鎌状に曲がっているのが多いのが特徴です。

漢字では榊と書きますが、この字は中国からきたものではなく、サカキの枝葉を神事に「玉串(たまぐし)」として使うことから、日本で作られた漢字であるとのことです。 (会員: 佐藤宏)



樹木の紹介(第17回) 厄除けに用いられる「ヒイラギ」

ヒイラギは公園や庭先などに植えられることの多い樹木ですが、小笠山でも時々見かけます。特徴は革質の堅い葉に鋭い棘があることです。この棘はさわると痛くヒリヒリ痛むことを意味する古語「疼(ひひら)く、疼(ひいら)ぐ)」が名前の元になったようです。この棘は老木になると減ったり、全く無くなることもあります。人間も年をとると角が取れてまるくなると言われますが、どこか似ているところがあるように思います。

ヒイラギはモクセイ科の常緑小高木で、秋に香りの良い白い花を咲かせます。仲間にキンモクセイやギンモクセイがあり、ギンモクセイとの雑種と言われるヒイラギモクセイなどがあります。

なお、前回掲載した第16回ウバメガシの中で「ウバメガシの小笠山南部地方の呼名は「イヌマメ」ではなく「イマメ」でしたので訂正しお詫び申し上げます。

(会員: 佐藤宏)

 


樹木の紹介 第16回 小笠山を代表する樹木「ウバメガシ」

ウバメガシは小笠山の尾根沿いにたくさんあり、純林もあって小笠山を代表する樹木です。この樹木は良質な炭の備長炭になることで有名ですが、炭窯で焼いてみても単なる堅炭になるだけで備長炭にはなりませんでした。樹の名前については、新芽や新葉が茶色く、これを老女に見立てたことが由来です。小笠山南部の海岸地方ではイマメガシやイヌマメと言った方が分かるかもしれません。

ウバメガシは日本では関東地方以西に生育するブナ科コナラ属に分類される常緑の低木ないし小高木になります。大きなものは高さ10m、幹周2mを越すものもあります。掛川市内で最大のものは小笠神社の裏にあります。これ以上のものがあったら教えてください。

この木のドングリは花が咲いた秋に実り翌年完熟します。実は食べられ、私の子供の頃、食料難の時代、食料にするため山で拾ったドングリを学校に提出した記憶があります。またドングリでおもちゃの「コマ」を作り遊びました。ドングリは完熟する前の少し軟らかいものがよく、竹で作った短い軸を刺して回し、その時間の長さを競ったものです。 (会員: 佐藤宏)

ウバメガシの繁る尾根を歩く

ウバメガシの新芽



樹木の紹介 第15回 ネムノキ(合歓の木)

初夏・梅雨の頃から真夏にかけて、小笠山周辺の山々で目につくものにネムノキの淡紅色の花があります。

ネムノキは本州以南の日本を始め東南アジアに広く分布するマメ科の落葉高木です。葉は羽状の複葉で涼しげな感じがします。この葉は暗くなると眠ったように閉じ垂れ下がるのが特徴(就眠運動)で、このことが名前の元になったとのことです。漢字では「合歓の木」と書きます。

花は枝先に密集して付き、筆のような花は先が紅色、根元は白色。遠くから見ると淡紅色の帽子を被ったように見えます。淡紅色に見えるのは花びらではなく、雄しべが集まったものです。この花は、夕方に開き翌日の朝には散り始めますが、数が多いので昼間も咲いているように見えます。

果実は花の咲いた秋に実り、マメ科植物特有のさやの中に種子が10~15個入っています。

他の特徴として、材の色が極端に黒いことがあります。黒いのは中心部だけで、樹皮に近い周辺部は白いことが不思議です。  (会員: 佐藤宏)   写真「撮影2022.7.3 中山幸男」


樹木の紹介 第14回 クマノミズキ

梅雨時、小笠山周辺の山々には遠くからでも目につくものにクマノミズキの白い花があります。

クマノミズキはミズキ科サンシュユ属の落葉高木です。同科同属で良く似ているものにミズキがありますが、小笠山周辺ではクマノミズキに限られているようです。和名は発見された熊野に由来します。

いずれの種も樹形全体が段々のようになるのが特徴です。特にミズキは枝が車状に出て広がることから別名「クルマミズキ」と呼ばれています。ミズキという名前は、春先に枝を折る(切る)と水が滴るように出ることから付けられたとのことです。以下に二つの違いを記してみます。

葉は枝の先端部に密集して付き、良く見るとミズキは互生し、クマノミズキは対生しています。花はいずれも葉が出てから咲き、小さな花が穂状に付き同色で区別が難しいのですが、開花時期が違います。ミズキは晩春でクマノミズキは初夏です。種子は10月~11月頃に黒く熟し、直径5~7㎜位の球形をしています。比べるとミズキの方が少し大きいようです。この実はヒヨドリやムクドリなどの野鳥が好んで食べます。

同じ仲間にヤマボウシと外来種のハナミズキがありますが、花が全く違うので比べてみるのも面白いでしょう。 (会員: 佐藤宏)

 


樹木の紹介 第13回 ヤマモモ

初夏、梅雨の季節になると小笠山周辺ではあちこちでヤマモモが実ります。ヤマモモは日本のほかアジアの暖かい地方に広く分布し、海岸近くの山地に自生するヤマモモ科の常緑高木で大木になるものもあります。

この樹木は、雌雄異株ですから雄の木には実がなりません。自然状態では隔年結果の性質が強いようでたくさん実を付けた翌年は全く実をつけなくなります。果実は甘酸っぱい味がして食べられますが、野生のものは果実が小さく種子ばかりという感じであまり勧められるものではありません。自分が育った海岸地方の田舎には大きな実のなる大木がたくさんありました。自宅にあったのは赤い実のなるものでしたが、近くの家には「シラモモ」と言われる大きな白い実のなる木があって頂きに行ったことがあります。

ヤマモモの花は、春(3~4月頃)咲きます。雄花は樹木全体が茶色になるほどたくさん咲くので誰でも気付きますが、雌花は気付かない人が多いと思います。それはヤマモモが風媒花で雌花が目立たず、花と言っても細長い雌しべ(赤色)が数本チョロチョロと出るだけだからのようです。花粉は数キロメ-トルも風で飛ぶそうですから、知らないうちに受粉が行われているのです。(会員 佐藤宏)

色づくヤマモモの実(2019.6.18・エコパで撮影:中山幸男)

 


樹木の紹介 第12回 エゴノキ

ゴ-ルデンウィ-クを過ぎた頃、小笠山周辺の山々では、白い花をたくさん付け目を引く樹木にエゴノキがあります。エゴノキは、日本各地の山野に広く自生する落葉小高木で、高さは7~8mになります。状態によっては10mを越します。名前の由来は果皮が「エグイ」からと言われています。

春に新芽を出し、伸びた新芽の葉腋に細長い花柄を出して5月に花を付けます。普通の花は白色ですが、市販のものには赤花種(薄桃色)があり、私の家にも1本あります。花は長さ2~3㎝の細いひも状の花柄にぶら下がってたくさん咲き、良く目立ちます。

そして7月~8月には長さ1㎝内外の楕円形の果実をぶら下げます。

果実にはサポニンという有毒な物質が含まれています。このため昔は果実をすりつぶして、川に流して小魚を捕ったりしました。また果皮には界面活性作用がある物質を含むため石けんの代用にしたこともあります。このエゴノキの果実は有毒ですので口にしないようにしましょう。しかし、小鳥のヤマガラには毒の耐性があり好んでこの実を食べます、我が家の庭のエゴノキでもシ-ズンになるとヤマガラが飛来し、近くの森に実をせっせっと運びます。どうも貯蔵しているようだす。運び始めるとたくさんあった実も半月程度で無くなってしまいます。(会員: 佐藤宏)

エゴノキの花 (撮影:中山幸男)

 


樹木の紹介 第11回 キブシ(木五倍子)

キブシは全国の山地に生える極くありふれた広葉樹の落葉低木で、小笠山周辺でもあちこちで見ることかできます。この木は、3月頃には蕾を付け、4月に入ると新芽(葉)が出る前に花を咲かせます。花は派手なものでなく鐘形をした薄い黄緑色の地味なものです。この蕾と花は一寸変わっていて、4~10㎝位の穂状花序に多数ぶら下がり、特に蕾の出始めは黒っぽいもので、これ何という感じがするほどです。この樹は雌雄異株ですから、花を良く見ると雌雄で形が少し違うのがわかります。雄花は雄しべの先端の黄色い葯が目立ちます。初夏になると雌の木には、長さ8㎜位の丸い果実がたくさんぶら下がります。これを「フシ」(五倍子)の代用に使ったことから、キブシ(木五倍子)の名が付けられたといいます。フシ(五倍子)とはヌルデの葉や茎にできるタンニンを多く含む虫こぶで、かつてお歯黒の着色に使われたり、染め物の黒色の染料に使われたりしたものです。 (会員 佐藤宏)

 垂れ下がるキブシの花  撮影 中山幸男

 


樹木の紹介 第10回 ヤブツバキ(藪椿)

 野生の樹木の中で冬に花を咲かせるものは少なく、ヤブツバキのように晩秋から開花を始めるのは例外的です。ヤブツバキは全国各地に分布す常緑高木で、小笠山でもあちこちに見られます。開花時期は11月末から4月と長く、花は美しく魅力的。花の無い時期、森の中で咲く赤い花は目立ち、メジロなどの鳥が蜜を吸いにやってきます。材は庭木や公園樹、盆栽や器具材などに使われますが、花が合弁花で散る時にポロリと落ちる事から庭木にするのを嫌うこともあります。種子からは良質な油が採れ、ツバキ油として整髪料や食用に使われています。その産地として大島が有名です。またツバキの木は雑木として伐採されてしまことから巨樹は珍しく掛川周辺でも幹周1mを越すものは多くはありません。読者の中で寺社境内や自宅の庭などに大きなツバキの木がありましたら情報をいただきたいとと思います。     

 なお、ツバキの仲間によく似たサザンカがあります。サザンカの花は合弁花ではなく、花びらがパラパラと散ることで区別できます。(会員: 佐藤宏) 

小笠山の森で咲くヤブツバキ (撮影:中山幸男)   


樹木の紹介 第9回 アリドオシ(蟻通し)

新年は少しめでたいものを考えました。めでたい樹木といえば、千両や万両を思い浮かべますが、今回は「一両」にたとえられるアリドオシを紹介します。

アリドオシは、関東地方以西の暖かい地方の山林の下などの少し乾燥気味のところに育つ常緑の小低木です。樹高は30~60センチ。小笠山でもあちこちに見られます。特徴は、細い枝に比較的小さな葉が対生しています。よく見ると大きな葉と小さな葉が交互に付き、大きな葉のところに一対の鋭いトゲがあります。このトゲが「蟻」をも刺し通すというで名前が付けられました。花は初夏5月頃、白色で長さ1センチ位の筒型をし、先端が4つに裂けています。この花は芳香かあるので嗅いでみるのも一興です。果実は直径1センチで秋に赤く熟しますが、これが翌年の花時まで残ることから、赤い実が年中有ると解して「千両、万両、蟻通し」、年中お金に困らないと洒落て縁起をかつぎました。この中で「千両」はセンリョウ、「万両」はマンリョウの木で、「百両」はカラタチバナ、「十両」はヤブコウジと言い、アリドオシの一両とともに縁起木とされます。 (会員 佐藤宏)

 

果実を付けたアリドオシ (撮影:中山幸男)


樹木の紹介 第8回 コナラ

12月になり小笠山周辺を遠くから見ると青々と繁った常緑樹の間に点々と黄色の模様が見られます。そのほとんどはコナラという樹木です。黄色と言っても鮮やかなものではなく、茶色ぼっく地味なものです。その色は年により変化があり、見事な紅葉になることもあます。コナラは、日当たりの良い山野に普通に見られる樹木ですが、雑木として扱われています。それはかって薪や炭の材料として使われていた名残りかもしれません。実際は、建築材などにも使われる有用な樹木で、特に椎茸栽培の原木としては価値が高く、遠州地方では最も多く使われています。このほか、春の芽出しが白く輝いて美しいことや、秋には黄葉が見られるほか、たくさんのドングリがなることから公園樹としても利用されています。 (会員:佐藤宏)

コナラの紅葉 (撮影:中山幸男)

 


樹木の紹介 第7回 タカノツメ

モズの高鳴きが下火になり庭先にジョウビタキが姿を見せると、まもなく近くの山々に紅葉の季節が訪れます。小笠山周辺では紅葉というより黄葉するものが多いようです。イチョウほどてはありませんが、在来の樹木としてアオハダ、エノキ、タカノツメなどがあります。この中でお薦めはウコギ科の落葉小高木のタカノツメです。樹木の特徴としては樹皮は灰色で滑らか、葉は三出複葉のものがほとんどで、単葉や2小葉のものもあります。12月上旬、黄色く色づき大変きれいです。春の新芽はタラノキやコシアブラと同様に山菜として利用できます。花は5月から6月に開き、黄緑色の小さな花を多数つけ、秋には直径8ミリほどの黒色の丸い実をつけます。タカノツメの由来は、この樹の冬芽が猛禽類の鷹の爪に似ていることからつけられたとのことです。また、別名イモノキは材が芋のように柔らかいことからだそうで、この柔らかさを利用して扇の骨や経木、楊子などに使われます。(会員 佐藤宏)

黄葉のタカノツメ (2017 年12 月9日 撮影:中山幸男)


樹木の紹介 第6回 ソヨゴ

小笠山周辺では10月も半ば過ぎると赤い実を付ける「ソヨゴ」が目を引くようになります。その実は美しく可愛いので注目されます。ソヨゴは、東北地方南部以西の山地に広く自生するモチノキ科の常緑高木で、高さは5~10m位になります。果実は直径7~8mmの赤くて丸い実です。特徴は細くて長い柄に1個ずつぶら下がるので、仲間のモチノキやクロガネモチと容易に区別が出来ます。この樹は雌雄異株ですので雄の木には実はなりません。ソヨゴの名前は葉が風に吹かれてザワザワそよぐことからつけられたと言われます。漢字では冬青と書きます。別名のフクラシバは生葉を火に入れると膨らむことから名前が付いたと言われます。試しにライタ-であぶってみましたが火が強すぎるのか思うように膨らみませんでした。葉の形は、ギザギザの無い全縁の単葉で少し波打っているように見えます。花は初夏に咲きますが、黄緑色で小さく目立ちません。

 (会員 佐藤宏)         ソヨゴの実  (撮影:中山幸男)


樹木の紹介 第5回 タラノキ

夏の暑さが盛りを過ぎる頃、小笠山周辺では白い花を咲かせる樹木「タラノキ」が目につくようになります。生育場所、は樹林の中ではなく、背の低い少し開けた所が好きなようです。タラノキは、日本各地に自生するウコギ科の落葉低木です。茎や葉に鋭い棘があります。春の若芽は山菜「タラノメ」として人気があります。シ-ズンには店頭で売られていることもあります。葉は枝先に集まって付き、少し専門的になりますが奇数2回羽状複葉といい、大きな葉は1mほどになるものもあります。全体に棘が少ないのを「メダラ」といいます。また棘が全くないものを「棘なしタラ」と言って栽培されています。これは根からの発芽力が強くあちこちから芽を出し成長するので少々厄介ものです。 (会員 佐藤宏)

写真:タラノキの花 (中山幸男 撮影)

 


樹木の紹介 第4回 リョウブ

日本各地の山林に生える落葉小高木で高さは8m位、小笠山にもたくさんあります。幹は樹皮が薄くはがれやすく、茶色と灰色のまだら模様が特徴の樹木です。花期は夏。枝の先端に白い花を房状にたくさん咲かせるので目を引きます。今年は、花の開花が早く既に花は終わりましたが、実が見られます。春の若芽は「りょうぶ飯」などに利用できるとのことです。奈良から平安の律令制の時代に若葉を貯蔵し飢饉に備えるように官令がだされたことから「令法(りょうぶ)」の名前がついたと言われています。 (佐藤宏)

 

 

リョウブの花で吸蜜するモンキアゲハ (中山幸男 撮影)

 


樹木の紹介 第3回 カギカズラ

 今年はアカネ科のカギカズラが花をたくさん付けた。この樹木は名前のようにカギ(鉤)のあるつる植物である。林道脇にあるその木の一つは根回りが57㎝と大きく、アラカシの枝に釣り針のようなカギを引っかけ枝分かれしながら立ち上がり、側枝を横に伸ばし広げている。カギカズラは小笠山にはたくさんあるが咲いた花を見ることがないので不思議に思っていたが、花を付けた木は大きいので、かなりの年数を経て花を付ける植物と考えた。6月中旬に咲く花は球形で良く見ると小さな花がいっぱい集まっている。花をいっぱい付けた様子は壮観で生命力を感じる。枝にあるカギは2つ,1つと規則正しく付いている。このカギはアルカロイドを含み生薬名は「チョウトウコウ」。頭痛やめまいなど高血圧症状の改善、最近では脳血管障害に伴う痴呆に効果があると注目されている。 (中山幸男)

 



樹木の紹介 第2回 ネジキ

 

ネジキ(捩木)はツツジ科で日本各地の日当たりの良い山に生える落葉低木で高さ5m位になります。幹や樹皮がねじれていることからネジキの名があると言われています。花期は5月中頃から6月上旬頃です。花は白いつぼ型でスズランのように一房に10個ほどぶら下がって並んで咲きます。小笠山にもたくさん自生していますから、樹皮や花の特徴さえ知っていれば簡単に見つけることができます。なお、葉や花には有毒成分がありますので、口にしないようにしましょう(会員:佐藤宏)

並んで咲く白いネジキの花 (2018.5.16 中山幸男)



樹木の紹介 第1回 クロバイ

 

 クロバイは関東地方以西の暖地に生えるハイノキ科の常緑高木。小笠山にも自生していますが、普段はあまり目立たない樹木です。ヤマザクラやソメイヨシノが終わった頃、白い花を一斉に咲かせます。花は上部に咲くため遠くから見ると白い「もや」のように見えます。花の咲く時期にならないと気付くことの少ない木です。小笠山周辺では、最大のものは幹周175㎝の大木もあります。別名は「ハイノキ(灰の木)」で、枝葉の灰を染め物の媒染剤に使ったことからとのことです。

花で真っ白なクロバイ (2021.4.10 撮影)



小笠山の巨木

参道スギ (幹周4.35m)

アカガシ (幹周3.02m)

ヒメシャラ (幹周1.5m)